第4話 結句


 実の父は母を小学生の頃、初めて出会った日からずっと狙っていたらしい。


 幼馴染とは言うが…あたかもバッタリ会うかのように仕組んでいたよ、とは彼を友人と呼ぶ人の弁。


 実父は当時、父子家庭であったようで…色々と問題ある家庭であったらしい。


 再婚離婚を繰り返す父親が、度々地元の集まりでも話題になる程のかなり問題のある人物だったようだ。


 「八重は僕と遊ぶのが楽しいんだって」

 「八重とこないだのお祭りで結婚の約束したんだ」


 さも母との繋がりを周囲にアピールする実父。


 だけど、散々周囲に語るも母本人には伝わっていなかった。


 だが狭い街なので子供達からの噂は親を通じて流布されしまう。


 親達にしてみれば、子供の戯言。

だが本人にしてみれば、すべては自分に返ってくる事象であった。


 「八重は必ず僕と結婚する」

 ストーカー気質だったのか思い込みが凄かったらしい。


 中学生になると母は遠い学校に行ったので、実父との距離が出来た。


 だが諦め切れなかった実父は時折り母の様子を見に行っていたらしい。


 それは高校時代まで続いた。


 一見一途に見える行為は地元の同級生達に囃し立てられ、本人はあたかも付き合っているような素振そぶりを見せていたと言う。


 これは伯母さんの情報収集能力の賜物だ。


 ただ学校内には入れないので、こそこそと学校内で愛を育んでいた父と母の様子を当時は知る由もなかったようだ。


 気づいたのは結婚をした、と言う友人からの知らせだった。


 事情が事情なので近親者のみに伝えられた二人の結婚は式を挙げる事なく、入籍と実家でのお祝いで終わった。


 たまたま母が連絡した友人が実父とも関係があって知り得たことだったが、それからストーカー行為はエスカレートしながらも気付かれずに実行されたようだ。


 再会から二人だけの飲み会まで、計算され尽くされた結果は恐ろしく感じる。


 要するに先生にネトラレたと思い込んでしまい、常軌を逸した行動に出たのだ。

 結局自身がネトラレ行為に及んだ事になる。


 正直、引く内容だった。

 

 母が身籠り、実家に帰ると時折り実父は顔を出していたようだ。


 母としては会いたくなかったようで居留守を使っていたらしい。


 なんせ母にしてみれば、どちらが父親なのか分からない上に…実父が当然のように姿を見せるものだから気が気じゃ無い。


 ただ幸いな事に実父は母を大事に思うあまり、それ以上の発言や行動はせず…静かに見守る事にしたようだった。


 ただし警察の厄介になった事も行動に制限が掛かる結果となった。



 母が出産する頃には最後まで残っていた集落の隣人が山を降り、本当に一軒家になってしまった。


 まあ母は近隣の街の産婦人科に破水する前に入院していたので、トラブルは無かった。



 伯母さんは、母が妊娠中も実家に待機してくれていたので…実父の存在はすでに知っていた。


 気づかない訳が無い。


 目を合わせずに居留守を使う母、さも当然のように来る男は幼馴染だと言う。


 伯母さんは妊婦である母を問い詰めず、幼馴染の男を問い詰めた。


 だが口を割らずに意味深に笑みを浮かべる男に不気味さを感じ、警察に通報。


 婦女暴行事件の前科があり、あっさりと連行された。


 伯母さんが確認したところ、前科は高校生に性的暴行をした罪だったが…それ以前にも示談した為に不起訴になったものがあった。


 前科は反省の色が無く、非親告罪(告訴無しでも公判請求出来る犯罪)だったので取り下げが出来なかったらしい。


 伯母さんは探偵になれると思う。


 本来であれば接近禁止令も視野に入れておくべきであったが、母は後ろめたいのか…視界に入らなければ良いとしたようだ。


 それから母は子育てに集中、それで精一杯だった。


 やっと息子が成人し、ひと段落したのに…俺のせいで家庭は崩壊した。



 だがしかし、様子のおかしい母を遠目で確認したのだろう…母の言い付けを破って会いにきたようだ。


 書類に起こしておけば良かったかもしれない。



 母は残念ながらを生きている。

 父との蜜月な過去だ…誰も妨げられ無い。


 「貴方はどちら様ですか?」

 「僕だよ、僕!幼馴染の!」

 「???」


 間男と母の会話は重なり合わない。


 その場に居ない父のせいだと思い込んだ実父は、どうやら父と対面したようだ。

 どんな方法を取ったのかは知らないが…


 『何だね?私を笑いにきたのかね。良かったじゃないか、君の子供だったんだ。喜びなさい』

 父はそう言って高笑いしたらしい。


 ふらふらと歩き出す父の姿を実父は悔しげに見つめ…一緒に八重と居られなかった僕への当て付けだ!とトラックに乗り込む。


 本来なら父を昏倒させ、荷台に乗せて山奥に捨てようと借りたトラック。


 交差点で未だふらつく父に向かってアクセルを踏んだ。


 跳ね飛ばされた父は、その時…笑顔を向けたと言う。



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