第3話 結果

 俺は進級スキップを繰り返した。

周囲から[気狂い]と呼ばれたが、気にしなかった。


 気付けば資格を取り、卒業試験も難なくクリア…気狂い日本人クレイジーモンキーの称号を獲得した瞬間だった。


 正直、どうでもいい。



 『不甲斐無い父で申し訳ない』

いまだに耳に残る声、その声は…スマホに残したままだ。


 『よく頑張ったな。ところで手紙は読んだか?読めば必ずお前の今後に役立つ。家に帰る前に読んでくれ』

 無言で渡される手紙を見た時、そう言って貰えると帰国した時は思っていた。

 

 だが結果は…『調べてしまったんだな』と言う言葉だった。



 あれから父とは連絡を取っていない…最初に掛ける言葉が見つからなかったからだ。

 そんな中、俺宛にエアメールが届いた。


 伯母さんからだった。


 手紙の内容は、DNA検査で俺との親子関係が否定された話を父は伯母に真っ先に知らせていた事。

 家族関係について再考する必要がある、とその専門家に相談する事になった。


 だけど伯母がついうっかり関係性のある男性の話をしてしまい、父に問い詰められた事…が割と長々と綴られていた。


 他の人は、遺伝的なつながりがないことを知っても、法的に親子関係が承認されている場合は、それを尊重し続けることを選ぶかもしれない。


 たが今回は伯母さんにしてみれば、家族関係を潰す一端を担ってしまった…と落ち込んでるらしい。


 その伯母さんの手紙を読み切ったタイミングで今度はEMS、国際スピード郵便が届いた。


 父からのものだった…いや、正確には父の事を伝える遺書のようなものだった。


 同封された手紙の内容は、贖罪と自身の悪口と母への賞賛だった…読まなければ良かったと後悔したが、すでに遅い。


 慌てて国際線のアプリを起動、ファーストクラスしか空いてなかったが速攻で予約。

 もっとお金があればプライベートジェットも、何て考えながら飛行機に乗り込む。


 成田に到着。

 俺はタクシーの運転手を焚き付けて帰宅を急いだ。


 自宅にはほぼ半分の時間しか掛からず到着した…運転手には感謝と称して多額のチップを渡した。



 俺は在学中にリベート成金になった。

おそらく獣医師の卵の中では金持ちの部類になるほど稼いだ。

 さすがにプライベートジェットは無理だったが。


 そんな事はどうでも良い、とにかくタクシーを降りた俺は家路に走る…すでに夜になっていた。


 自宅は宅地の奥まった場所にあって、車では辿り着けない。


 小道を急ぎ足で歩く。


 前日の雨でぬかるんだ小道は慌てると大惨事になる。


 玄関前まで来た…居住いを正す。


 インターホンを押さずに「ただいま」と言いながら、玄関のドアに手を掛ける…ガチャリと開いた。


 「アナタ!帰って来てくれたの?」


 出迎えは母だった…しばらく見ないうちにハリのあった顔にはシワが目立っていた。

 いくらか猫背になったようだ。


 「お父さんがどうしたの?」


 俺は気付いてしまった…靴箱の上にあった、俺が幼い頃に家族で撮った写真が写真立てごと無くなっていることを。


 母はその場で蹲り、気を失った。

俺の声を父と勘違いするほどだったようだ。


 そのタイミングで伯母さんが来てくれて事情を話してくれた。



 父は一昨日、近所の横断歩道上に死体で見つかった。


 信号無視をしたトラックに轢かれたのだ。

それは意図した事なのか、本当に事故なのかは分からない…と言われたが。

 被疑者の名前で凍りついた。


 俺の実の父親の名前だった。

 

 伯母さんのエアメールに書かれていた名前…。



 父は帰らぬ人になって、母はその場で意識を失い…俺が帰宅する直前まで、目を覚まさなかったらしい。



 それから数日後、母は落ち着きを取り戻したが…毎朝父の所在を聞いてくる。


 旅行に行っている、と伝えると何か琴線に触れるのか…納得してくれた。


 俺は取り憑かれたように大学への編入と試験の申請を進めた。

 すでに海外で取得した獣医師の資格は、日本でも価値のあるもので…すぐさま認可された。


 試験当日、男の人に声を掛けられた。


 試験に集中するあまりに、ハッキリとした記憶には残っていない、が…その人物の顔と名前はしっかりと覚えている。


 実の父親、父を殺した人物が検事官の監視のもと…俺の前に現れたのだから。


 『やっと君にも、君のお母さんにも堂々と会えるね』


 何言ってんだコイツ…少し殺意を感じた。




 母はずっと塞ぎ込んでいる。




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