EP1-2:コミュ障デビル

──キーンコーンカーンコーン


 チャイムが鳴り、今、学活が始まった。


「起立、礼、着席」


 一斉に席を立ち、頭を下げる。


 素直に礼をしている者もいれば、眠っている者も いた。


 欠席の者もいれば、


 ──遅刻する者もいた。











──キーンコーンカーンコーン



 校門を潜るとほぼ同時に、チャイムが鳴った。

 俺は走るスピードを上げる。


「(せめて、出席を取り始めるまでには……!)」


 それだけを考え、一心に走る。


 ──ふと足が止まった。

 何か 感じたのだ。

 普段なら、そのくらいで止まる俺ではないが、感じるのだ、何か、”妙な物”を。


 第六感か?

 直感的な何かが……。

 この正体は……?


——上か?


 何か根拠があった訳ではない。

 ただ、やはり……


——いた。


 いま、確かに”何か”が俺を覗いていた。

 校舎から、 ”何か”が覗いていた。


 ただ、これは俺の考えすぎかもしれないが、

 ”あれ”は、何故だか……


 ——”人間じゃない”ような気がした。











──キーンコーンカーンコーン




 今、チャイムが鳴った。


「起立、礼、着席」


 教室の中の生徒らが やる気のない挨拶を終えると、

もうそろそろ「入っていいぞ」という声が聞こえてきそうで、

何故だか……、何だろうか、この気持ち……。




 ——転校初日とはいえ、私も、今日からこの学校の”生徒”となる訳だ。

 別に、不安はない。

 遠慮をするつもりはないし、 ”人間ども”と仲良くするつもりもない。


 ただ、[うつわ]を探すだけ。


 しかし、学校はなんて居心地が悪い。

 なんで制服なんてあるの?



 ——昨日は下見で、ここに来てみたのだが、何故だか”私服”ではダメらしい。

 あの教師、目を付けられたら面倒臭そうだ。


 それはそうと、器だ器。

 昨日のあの少年。

 教室に一人、残っていた少年である。


 せっかく、思い切って話しかけようとしたのだが、なんで妨害されるの?

 あの少年と二人きりで話せる絶好のチャンスだったのに。

 最初のチャンスを逃した私は、今日こそあの少年を——ということはせず、今日は ひとまず、 ”様子見”である。


 なんといったって、あの少年は———



 「あ、君も……っ?」


 [!?]


 誰だ!?


 振り返ると、そこには、茶色がかった黒髪の男子生徒が立っていた。


 「いや、仲間、だね、じ、つは、僕もなん、だ……っ」


 なぜだか、ものすごく息切れしている。


 そこで、私はハッとして、男子生徒をじっと見つめる。



 この髪色……。もしや──いや、まだ断言はできないか……。


 しばらく黙っていた私だが、思い切って口を開く。



 [あんた、私のこと知ってるの?]


 男子生徒は、睨みつけられても怯む様子はなく、逆に半笑いで言った。


 「知らないかも、あははっ」


 感情がこもってない笑い方。

 何となく、ぎこちない感じ。

 恐らくだが、無理してる。

 

 少し面白いので、いじってみよう。


  [好きな、食べ物は?]


 「ふえっ?」


 フフ、やはり焦っている。

 やはり、まずは、好きな食べ物であろう。

 人間は、「好きな食べ物」が一番答えやすいと 聞いたことがある。


 さて、答えられるか?


 男子生徒は あからさまにそっぽを向いて、考える素振りをし始めた。

 本物の「明るい系」であれば、こんな質問、パっと返せると思うが?


 しばらく考え、男子生徒はハッと思いついたような、これまたわざとらしい素振りを見せ、こちらを向いて言った。



 「結構 迷うけど、嫌い食べ物は、ブロッコリー。うん、そうかな。君は?」


 好きな食べ物は!?


 え? 待て待て、これって”受け狙い”じゃないだろうな。

 だとしたら……。……って、え? こいつ割とガチで”明るい系”なのか?


 確かに、つくりがよく、爽やかな顔———じゃ・な・く・てぇ!!


 なんで私が、こんなに、あたふたしてるんだ!

 これじゃぁ私が内気みたいだろ!



 「……あ、ごめん。嫌いな食べ物、ない感じ……? あ、うん、そうなんだ、うん……」


  [(あたふたあたふた)]


 気ィ使わせちゃったよォ!

 てか、こんな爽やかイケメンタイプなら遅刻なんてすんなよ!

 いや、むしろ「ごめぇん、遅刻したわぁ」こそ爽やかイケメンの典型か……!?



 なんでなんで、なんで、こんなに、てんぱってるんだ私。


 私、もしや、 ”コミュ障”? 


 あー、ヤバい、本来の目的……、なんだっけ……?


 目まい、目まいがしてきてぇ—————————



[ドサッ]

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