ウツワと悪魔の世界救済譚

イズラ

EP1:楽園の兆し

EP1-1:とても小さな絶望

──キーンコーンカーンコーン


 チャイムが鳴り響くと ほぼ同時に、高校2年生「三宮 碧あんのみや アオ」のクラスは、 ”放課後”となった。


 ただ、放課後になっても、机に突っ伏したままの碧。

 皆が次々と教室を出て行っても、突っ伏したままの碧。

 担任が淡々とした態度で教室を出て行き、独りになっても、

 ──机に突っ伏したままの碧。


 彼に何があったのかは置いておいて、教室の外には、彼を”覗く者”がいる。

 ”赤茶色長髪の少女”が、碧のことを覗いていた。

 教室の半開きの扉から、 ”赤紫っぽい目”でじっと見ている。


 彼が机から ようやく顔を上げたところで、ようやく教室に足を踏み入れる。

 「恋する乙女を真逆にしたような目つき」だが、間違いなく彼に用があるようだ。


 少女が碧の視界に入ろうとした、まさにその時。


「君!! この学校は私服禁止だぞォ!!!」


 男性教師の図太い声が鳴り響いた。

 碧が驚いて廊下を見るより先に、少女は、その場から姿を消していた。











──キーンコーンカーンコーン



 チャイムと同時に、俺たちは”放課後”になった。


 皆が帰っていく。


 こうして机に突っ伏していると、皆の声だけが聞こえてくるのだ。

 そして、それらは遠ざかっていく。


 ──いま、担任が出て行ったと思う。

 特に俺に声をかけたりもせずに。

 机に突っ伏した俺など、視界に入っていないのだろう。


 ”絶望”に”孤独”が加わったが、俺は机に突っ伏している。


 ”孤独”とは、 ”絶望”を引き立たせる調味料なのかもしれない。

 なんてことを独り、考える俺。




 ──そうだよ! 補習だよ!

 しかも、よりによって、 ”ネチっこい”で有名な数学科の管杉くだすぎなのが一番の絶望!


 あーあ、多分もうそろそろ来るー。

 ”ダルい”より”怖い”が勝つよホントに。


 突っ伏してるのを見られるとマズいので、仕方なく起き上がった。

 そして伸びをしようとした、その時──



「君!! この学校は私服禁止だぞォ!!!」



 怒号が鳴り響いた。

 管杉の声である。

 廊下で叫んだ模様。


「うるっさ……」


 それにしても、私服で来る奴なんているのか。


 そう思いながら、机から数学の教科書を取り出し、読み始める。

 その方が印象いいだろ?

 ”書いていること”は何一つ頭に入ってこないが。


 それからすぐ、管杉が現れた。

 教室に入るなり、なぜか”何か”を探し始める。

 それにしれも真っ赤な顔である。

 そう言えば管杉って過去に、自分にイタズラ仕掛けた生徒を、教室で 深夜まで叱ってたんだっけな。

 ”親を呼ぶ”ではないのが、また異常である。


 そして次の瞬間、俺は怒鳴られた。



 「何を呑気に”漫画”を読んでいる! とっとと帰らんか!!」



 俺は言われたことを理解できず、2秒ほど口をぽかんと開けていたが、『帰れ』と言われたからには、 ”教師の命令”に抗う訳にはいかない。


 無言でカバンを背負い、教室を出て行った。




 しかし なんで あんなにイラつくんだろうな。

 てか、なんで制服があるんだ?


 考えても分からないことは置いておいて、どうやら管杉には俺の”教科書”が”漫画”に見えたらしい。

 もしや、管杉にとっては”高校の数学の教科書”など、 ”漫画に過ぎない”のか...?


 そんな、くだらない事を考えながら、俺は帰り道を歩いていた。



 しかし、教室で感じた あの [妙な気配] は一体……?





 [そう、 ”彼”は、何も知らないのだ。

 これから何が起こるのか、そして、この世界がどうなるのか。

 ”私”が、それを教えなければならない。

 彼のため、人間界のため、そして、

 ——楽園のためにも……!]

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