第14話


村長の家で魔法契約を済ませた商人のシュテルと食料雑貨の店主、それを見届けたローズマリーは店へと戻り、ローズマリーはようやく木皿が買えると思っていたが、店主は洗髪液の商談を終わらせてからにしようと提案し、それに了承すると、奥にある商談スペースへと移動する。

こじんまりとしているが、落ち着きのある色合いのソファーに座ると、ローズマリーはアイテムボックスを出現させ、中から予め入れておいたハーブティーのセットとクッキーを取り出し、テーブルの上に人数分配り終える。


「それはもしかして、アイテムボックス?!高い魔力保持者しか創り出せないと噂の!⋯⋯ッ、失礼しました⋯まさかこの目で見られるとは思わず、驚いてしまいました⋯あぁ、お茶を出して頂き、ありがとうございます」


「私からも、お茶を出してくれてありがとうね。でも、次からはビックリさせないように気を付けようね」


「はーい!気をつけま~す。ハムハムハム⋯クッキー美味しい~!」


気を付けるべきはそこなのかと内心思ったシュテルは、出されたハーブティーを一口飲むと、心なしか落ち着きを取り戻したが、茶菓子であろう初めて見るクッキーをしげしげと眺めた後、一口味わった瞬間カッと目を見開き、次いでどこかウットリとした表情を浮かべ、ハッと現実へと帰り、同じ反応をしていた店主と共に質問する。


「マリーさん、洗髪液と一緒にこのクッキーも売りませんか?」


「へ?」


「このクッキー、とても美味しいから気に入っちゃってねぇ⋯いつでも食べたいから自分で作ってみたいんだが⋯レシピ、いくらで売ってくれるか、教えてくれるかい?」


「レシピ?⋯もしかして売れるの??」


コテンと可愛らしく小首を傾げるローズマリーにシュテルと店主の二人はブンブンと首を縦に振って頷く。


「売れるなんてものじゃありません!こんなに美味しい菓子が作れるのであれば、大儲け間違いなしですよ!」


「そ、そんなに?材料は何処にでもあるありふれた物だし、手間だってそんなに掛かってないし⋯」


「なら尚更欲しがる人間は増えるねぇ⋯手近な材料で簡単に菓子が作れるレシピ⋯売れるね!」


「えぇ⋯う~ん⋯そういうもんなのかなぁ⋯」


「「そういうものよ!」です!」


ユニゾンで答える二人にローズマリーは難しく考えるのをやめ、暫く内心で前向きに検討した結果、クッキーのレシピを販売することに決め、その事を伝える。


「クッキーのレシピ販売を決断して下さって、ありがとうございます!必ずや、売って売って売りまくってやりますのでご安心を!」


「これでいつでもマリーちゃんのクッキーを味わえるね~。⋯で、洗髪液とクッキーのレシピ、いくらで売りたい?」


販売価格をいくらにしたいか問われたローズマリーはそれぞれ手間や材料等を考え、それをワクワクしながら見守る二人に、ようやく値段が決まり伝える。


「う~んと⋯洗髪液は貴族向けに売るから小銀貨3枚、クッキーのレシピは庶民向けに銅貨5枚⋯⋯かな?」


「「安過ぎる!!」」


「ピャッ!」


考えに考え抜いた値段にシュテルと店主は再びユニゾンで答え、ローズマリーは驚いて身体をビクンッと震わせ、手に持っていたカップを落とし掛け、間一髪落とさずにすんでホッと息をつく。


「最低でも洗髪液は金貨5枚、クッキーのレシピは小銀貨3枚が妥当です」


「まぁ、それは最低値なだけで、本当はもっと値が釣り上がるだろうねぇ」


「えぇ?!もっと高くなるの?!?!」


先程以上に驚き過ぎて手に持っているクッキーをポトリと落とすローズマリーに、二人は頷く。


「それだけ、マリーさんが作成する物は優れものなのです」


「私ら庶民よりお金を持ってる貴族向けの商品なんだし、遠慮せず思いっ切り毟り取っちゃいましょ」


「ハハハハハ⋯⋯毟り取る⋯⋯」


更に値段が高くなると知って、どこか遠い目をしながらモグモグとクッキーを食べるローズマリーを置いてきぼりにし、二人の間で話が弾み、最終的な販売価格はローズマリーが考えた価格よりも数倍も高くなっていた。


「⋯というわけで、この価格帯が妥当だと思われますが、マリーさんはどうですか?」


「あ~~⋯私が作った物の値段に関しては、今後お2人に任せます。今回の話を聴いて、売り手側より作り手側の方が性にあってると痛感したので⋯」


「あら、マリーちゃんが作った物なのに、良いのかい?」


「うん。値段設定は素人の私より、商売のプロである2人に任せた方が安心だから⋯あ!でも、庶民向けの商品には出来るだけお手頃価格でお願いしたいなぁ⋯と」


「なるほど⋯マリーさんの願い、承りました!貴族階級には情け容赦無く思いっ切り景気良くお金を吐き出させ、庶民には良心的な価格で販売致しますね!」


「これから沢山儲かるわよ~!良かったね、マリーちゃん!」


「え、あぁ、はい⋯あ、そうだ!洗髪液を売る前に、2人とも洗髪液の使い方を覚えた方が良いから、私の家のお風呂で体験した方が良いかも!」


ローズマリーからの唐突な提案にキョトンとするシュテルと店主はすぐにハッと我に返り、戸惑いの表情を浮かべる。


「使い方を覚えるのは良いのですが⋯実地でとなると⋯」


「それに、洗髪液を使う条件にはタップリのお湯と温風魔法が無ければ駄目なんだろう?出来るのかい?」


「うん、出来るよ!最近、私の家のお風呂場を改築?増築?したから凄く広くてお湯もいっぱいだし、温風魔法は私が髪を乾かすから大丈夫だよ」


「あぁ⋯そういえば⋯」


「魔法も魔力も膨大だったねぇ⋯可愛さで忘れ掛けてたわ⋯」


「うん!だからね、お湯も魔法も心配ご無用!だよ」


ニッコリと可愛らしく自信満々に答えるローズマリーに二人はホンワカと癒され、言われるまま森にあるローズマリーの家にある風呂場でシャンプーと温風体験をした後、その仕上がりに驚き、益々商売魂を燃え上がらせ、ついでに二人の圧に気圧されるまま、身体を洗う液体石鹸の作成や、村に男女別にした風呂場を建てたい事、風呂上がりのフルーツ牛乳も欲しい事等を洗いざらい白状させられてしまった事で更に燃え上がってしまい、最終的にタッソ商会の支店をこの村に建て、ローズマリーが作成した物を販売したり、作りたい物をその支店で計画&実行する事になった。


「木皿を買いに行っただけなのにどうしてこうなった⋯」


「まぁまぁ良いじゃないか。幸い、この村に来る旅人や冒険者はあまりいないし、のんびりやりたい事が出来る場所が増えたと思えば良いじゃないさ。」


「う~ん、そんなもんかなぁ⋯」


「そうですよ。それに、面倒な事は私達大人に丸投げしてしまえばよいのですよ。あぁ、儲けた分の利益はちゃんとお渡ししますので御心配なく」


「それは別に構わないんだけど⋯まぁ、考えようによっては村が少しだけ豊かになりそうなのが良いことなの⋯かも?」


「そうだねぇ⋯村にお風呂屋が出来たら毎日通っちまうかもねぇ⋯タップリの温かいお湯に浸かる気持ち良さを知っちまったからねぇ⋯」


「えぇ、わかります。⋯風呂屋事業の計画は最優先で進めて参りましょう!」


風呂の魅力に取り憑かれた二人は再びローズマリーを置いてきぼりにしたまま話し合いを続け、夕方近くになって帰っていった。

シュテルと店主を見送り、玄関の扉を閉めてローズマリーが思った事は、人と話す時は慎重にしようと心に決めたが、何か忘れていると記憶をほじくり返せば川魚の事を思い出し、急いで食料雑貨店の裏手へ取りに行った後、その川魚を使った夕食を作り始めるのであった。



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