第11話
「⋯⋯さてと⋯リヒトさんが帰ってくるまでにやりたい事やっちゃおう!」
リヒトを見送ったローズマリーは、リヒトがいつでも入れるよう、結界魔法を家の敷地周辺に張り直してサムズアップした後、いつもの様に家中を清掃魔法で綺麗にし、鼻歌を歌いつつ森の中の拓けた場所にある、薬草園兼不思議植物が生えてくる菜園へと行き、村に卸す用の薬草類を暫しの時間摘んでいく。
「⋯フゥ、こんなもんかな。後は⋯」
丁寧に摘み取った薬草の束をアイテムボックスにしまい、
不思議植物が生える畑⋯略称・不思議畑はその名の通りのもので、生前の祖母がこの場所は特に豊穣神の力が強いからと、試しに畑を作ってみたらしく、当時話を聴いていた今よりも幼いローズマリーは、漠然と砂糖が入った実があれば甘いお菓子がいっぱい作れて食べられるのになと思っただけで突然畑の中から芽が出て倍速送りのように成長していき、やがて花が咲いて実をつけ、両手のひら大のサイズになった実の中を見てみれば、そこには精製された純白の砂糖がタップリと入っていたのだ。
その光景に度肝を抜かれつつも、仕組みにいち早く気付いた祖母は、塩があればこういう美味しい料理が作れる、酢があればもっと美味しい料理が作れる等をローズマリーに語って聴かせると、素直なローズマリーは塩と酢を使った料理が食べたいと思えば、先程と同じ現象が再び繰り返され、二つの実の中に塩と酢が入っていた。
ちなみに、リンスシャンプー作製や日々の食事に使用した肉類・乳製品・卵以外の材料もこの畑で収穫した物であるが、昆布出汁や鰹出汁は原材料が海の物で作られる為か、いくら念じても実をつける事は無かった。
そうしてローズマリーは、先の実例を踏まえてある物が欲しいと思い、強く念じてみようと試みる事にしたのだ。
そのある物というのは⋯
(味噌と醤油と白米が欲しい味噌と醤油と白米が欲しい味噌と醤油と白米が欲しい味噌と醤油と白米が欲しい味噌と醤油と白米が欲しい味噌と醤油と白米が欲しい味噌と醤油と白米が欲しい味噌と醤油と白米が欲しい味噌と醤油と白米が欲しい!!!!!!)
ローズマリーは前世の記憶を取り戻してからのパンを主食にした食事に飽き始め、猛烈に前世で食べていた和食が恋しくて堪らなくなっていたのである。
「ウオオオオオオオオオオ!!私が求める味噌と醤油と白米いいいいい!!!!!実をつけろやオラアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
畑の中で5歳児とは思えない鬼の様な形相で念じ続ける事数十分後、渾身の欲望を言葉に出したその時、ローズマリーの周囲で芽が出始め、シュルシュルグングンと脅威的なスピードで成長していき、最終的に3つの実が成った。
「やった!実がついた!!⋯いや、まだ喜ぶのは早いわ⋯喜ぶのは中身を確認してからよ⋯」
実が成った事に喜んだが、すぐに思い直して気を引き締め、ドキドキと緊張しながら、まず最初に黒い実からパカリと割って開けてみると、真っ黒な液体がチャプンと入っているのを視認し、次に黒い液体に恐る恐る人差し指の先をつけ、ギュッと目を瞑り、勢いを付けてパクリと口内に入れて味わう。
その瞬間、目尻からポロリと涙が一雫零れ、感激に打ち震える。
「そう⋯これよ⋯この味が⋯この、塩とは違うしょっぱさこそが醤油!待ってたよ醤油!ありがとう醤油!!」
暫く溢れる喜びに震えていたローズマリーは、採った黒い実をアイテムボックスに入れた後、次々採っては中身を確認し、その度に涙を流しながら喜び、あまりのテンションの高さに豊穣神へ感謝の祈りを捧げ続けたのであった。
興奮しながら感謝の祈りを捧げた後、残りの実を収穫し、ついでに身体と手を洗うのに使う液体石鹸を作る材料と、いくつかの食材を念じて実らせて採り、アイテムボックスにいれてると、ふと急に魚が食べたくなってきたローズマリーは、菜園を出て戸締り代わりの結界を張って森の中にある川へと向かい、歩いていく。
前世のスーパーにある魚売り場で流れていた魚の歌のサビ部分をエンドレスで歌いながら歩く事十数分後、所々に岩が鎮座している川原に、陽に照らされて水面がキラキラと輝く、階段状になった川に辿り着いた。
「おぉ~!これがこの世界で初めて見る川かぁ⋯綺麗~!」
転生後に初めて見る川に興奮し、駆け出しそうになったが、ハッ!と魔物や野生動物の存在を思い出すと、ローズマリーは目を瞑り、魔力を薄く広範囲に広げ、探知魔法を発動させる。
すると、脳内にマップが表示され、川の上流にある川原に1体、川の中に幾つかの赤いマークが表示されており、恐らく赤いマークは魔物を表しているのだろう。
ローズマリーがいる現在地は下流に位置する川原⋯上流の川原にいる魔物との距離はかなりあるらしく、逃げるにも魔法を発動させるにも十分な距離があると判断したローズマリーは、一応結界魔法を張って安全を確認し、改めて小走りで川へと向かう。
前世の記憶を取り戻す前、まだ存命だった祖母から、森の中に川があるが、魔物や肉食の野生動物が餌や飲水を求めて川に現れることがあり、身を守る術を持たないお前は決して行ってはいけないと固く禁じられていた為、好奇心はあっても川を見に行けなかったのだ。
だが今は自身を守る術⋯魔法を身に付けている。油断はしないように気をつけてはいるが、ずっと行ってみたかった川に行けてテンションが上がってしまうのは仕方のないことだった。
「わぁ⋯凄く水が澄んでる!魚もいる!アレは前世のテレビで見た鮎とか山女魚かな?凄い!!」
川を覗き込んだローズマリーは水の透明度と魚の存在に興奮し、キャッキャと
そうして、作ったばかりの生簀に魚と空気代わりにピンポン玉大の風玉を入れておき、どれ位の数の魚を生け捕りにしたのか生簀の中を確認する。
「どれだけ捕れたのかなぁ~と⋯う~ん⋯ちょっと捕り過ぎちゃったかな?でも、リヒトさん沢山食べるしなぁ⋯けど、こんなに捕って生態系崩しちゃわない?大丈夫??⋯⋯不安だから、鑑定して調べてみよう」
少しの不安感から捕った魚の生態を調べてみようと思い、早速鑑定してみると、どうやらこの魚は、この森の川の下流域のみでしか生息出来ない魚ではあるが、捕り過ぎても問題ない程沢山卵を産む為何の問題はなく、仲間が多くなり過ぎると自然と下流域に残留する組と、中流域や上流域に登って別の魚として進化・生息する組になるという不思議な生態が記されていた。
「なるほど~⋯出世魚的な魚なのかな?じゃあこれ位多めに捕っても大丈夫なんだね~。良かった!沢山捕っても大丈夫な事はわかったけど、
思い立ったが吉日とばかりに、ローズマリーは土魔法で頑丈な生簀を作って重力魔法で浮遊させ、その中に生簀の魚達を水魔法で運んで空気用に風玉も仕込み、何かあった時の為にとアイテムボックスに入れて置いた細いロープを取り出して生簀に結ぶ。
風船の様にフワフワと浮く生簀から結び垂れるロープの端を持つと、簡易生簀を土魔法で埋め、来た道を戻ってから、川原と自分の周囲に漂っているであろう人間の匂いを浄化魔法で消して結界魔法を解除し、来た時と同様に、魚の歌を口ずさみながらルンルンと機嫌良く村へ向かって歩いていくローズマリーであった。
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