第9話

翌朝


朝陽が出て間も無く、パチリとスッキリ目覚めたローズマリーは、手早く身支度を整え、別室で眠っているリヒトを起こさぬ様、ソロリソロリと抜き足差し足で部屋を出て階段を降りると、キッチンへ行って防音結界を張り、エプロンを着て大量の白パンを作る為に身体強化魔法を掛け、材料を多めに出し、「ウオオオオオオオオオオ!!」と気合いを入れて捏ねくり合わせていく。

昨夜のリヒトの食べっぷりを見て、通常量のパンではあっという間に食べ尽くされると考えたからだ。

暫く混ぜ捏ね続けたパン生地を粗方整形し、いくつか取り出したボウルの中に、それぞれパン生地を入れて通気性のある蓋をするイメージで結界を貼り、空中に魔法で作った、球体状だが空洞になっている大きなお湯玉の中に入れ、一次発酵をしておく。ラップが無く、発酵させるのに困っていた時に閃いた魔法で、大変助かっている。

次に一次発酵を待っている間、料理道具をしまっている棚の奥から大きな寸胴鍋を出してしっかり洗った後、アイテムボックスからこれまた大量の野菜類を取り出して包丁で切り、コンロの上に置いた寸胴鍋に切った野菜と、食料雑貨店で買っておいた干し肉をカットした物を、水を入れてコンロに火を着ける。

その後、お湯玉からボウルを全て取り出し、一次発酵しておいたパン生地をチェックして一次発酵が成功している事を確認すると、パン生地を取り出してガス抜きするように軽く捏ね、丸く成形して少しの間休ませる。

パン生地を休ませてる間にサラダとドレッシング作りを開始。保冷庫から葉野菜とトマト、アイテムボックスから予め作っておいたゆで卵を切って木製のボウルにサラダを盛り付けてからドレッシングを作り、サラダに掛ける。

次に、休ませたパン生地を別のボウルに移して成形し、再び温度を少し下げたお湯玉の中に入れて二次発酵を促し待ってる間、沸騰した鍋を見て灰汁が出てきたのを確認するとある程度取り、様子を見ながらダイニングのイスに座ってつらつらとアレコレ考えつつ待つ。


「時計欲しいなぁ⋯普通のゼンマイ仕掛けの時計じゃなくて砂時計でも良いから欲しい⋯勘と体感時間で料理するにも限度があるわ⋯魔法で作れたらなぁ⋯⋯⋯魔法?⋯!それだ!物品召喚で出せば良いじゃん!すっかり忘れてたわ!あぁ~、でも、今から砂時計出して使ったら発酵時間が分からなくなるから次回からかなぁ⋯⋯物品召喚を思い出しただけで良しとしよう!うん」


そう無理矢理自身を納得させたローズマリーは、野菜スープとパン生地の発酵具合を気にしながら鼻歌を歌い、朝食の準備を着々と進めていき、無事に二次発酵を成功させてからパンを焼き上げた後、少し冷ましてから何枚もフレンチトーストを焼き上げ、張ってあった防音結界を解除し、ダイニングテーブルに本日の朝食と、圧搾魔法で絞り出した果物のフレッシュジュースを並べていると⋯


「⋯おはよう⋯ございます⋯」


「ん?あぁ、おはよ⋯ゔっ⋯!!」


朝の挨拶をしようと振り返ったローズマリーはその姿にヒュッと息を飲み、固まった。

ダイニングの入口から寝起きによって色気ムンムン垂れ流し状態となったリヒトが歩いてきたからだ。


「ゆ、ゆゆ、昨夜はよく眠れた?」


「はい⋯お陰様で、眠れました⋯フアァ~⋯」


「そ、そう⋯ち、ちょ、朝食出来たから座って食べよう!」


「はい⋯」


そういってローズマリーはリヒトの姿を直視しないよう、手早く朝食を並べ終えてから、席へと移動して座り、いただきますと言って食べ始め、リヒトもフラフラとした足取りではあるものの、同様に席に着き、食前の言葉を言って食べ始めていき、その姿をチラリと盗み見る。

未だ眠気が覚めないのか、トロンと伏し目がちな濡れた蜂蜜色の眼に、長く豊かな金睫毛、半開きの唇から覗く赤い舌、極めつけは、寝乱れた金の長髪に、みぞおち辺りまで開けられたシャツから無防備に晒される白い素肌⋯こんな色々な意味で危ない姿を歳頃の女性達が見たら大変な事になるだろうと思いながら食事を食べ進める。

するとその時、リヒトはフレンチトーストを一口食べた瞬間、そのあまりの美味しさにカッと一気に眠気が覚め、そのまま無言且つ猛烈な勢いで、皿に山と盛られたフレンチトーストを食べ尽くし、次いでサラダと野菜スープも胃袋に収まり無くなっていく。

そんな、料理を食べて完全覚醒するリヒトを見てローズマリーは、やはり食いしん坊狐だなあ、面白いなあと思い、密かにクスリと笑うとスープのおかわりを教える。


「野菜スープはその寸胴鍋にタップリ入ってるから、自分でおかわりしてね」


「はい!ありがとうございます!!」


ローズマリーの言葉に嬉しくなったリヒトは耳をピンッと立たせ、尻尾をフサフサと機嫌良く揺らすと、早速スープのおかわりする為に椅子から立ち上がり、鍋が置いてあるキッチンへと向かい、戻ってきて食べてはおかわりをするを繰り返していく内にスープの量は減っていき、あっという間に鍋の中身は空になった。


「ごちそうさまでした~!美味しかったです!」


「ごちそうさまでした、美味しく食べられたようで良かったよ。食後のハーブティーを出すから、それ飲んで食休みして、それから出掛ける準備しちゃいなよ」


「はい、ありがとうございます。帰ったらお湯魔法や清掃魔法を習得して、お役に立ててみせます!」


「ん。まぁその時は気楽にね~。我が家は頑張り過ぎないのがモットーだからさ」


食器と鍋を一時的に片付けてから2人分のハーブティーをティーカップに淹れ、ソーサーごとテーブルに置き、席に着いて冷ましながらカップに口をつけ、コクリと飲む。


「ハァ~⋯美味しい。お腹が落ち着いていくわ~⋯」


「はい⋯何だかホッとして、安らいできて⋯美味しいです⋯このハーブティーを実家でも飲めたら良いのですが⋯」


「ん?じゃあお土産に茶葉持っていく?」


「え!宜しいのですか!?」


「構わないよ~。別に門外不出でも特別な秘薬でもない、ただの乾燥ハーブだし。コレ飲んだ後に渡すね」


「~~~~~~っ、ありがとうございます!」


「んじゃ、準備するまでお茶飲みながらマッタリしよう」


「はい。マッタリします」


その後は時々微かに聴こえる鳥の囀りを聴きつつ、ハーブティーを飲みながらユッタリと過ごし、飲み終わった後は各々出掛ける準備や食器の片付け等をしていき、気が付けばリヒトが出発する時間になっていた。


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