第6話

「ふわぁ⋯⋯⋯⋯」


「お先にお風呂頂きまして、ありがとうございます。お陰様でだいぶ疲れが取れてきました⋯⋯⋯あの⋯?」


「⋯⋯⋯⋯⋯ハッ!凄すぎてまたどっかに飛んでた!ん"ん"ッッ、お湯加減大丈夫だった?」


「はい。とても温かく、全身スッキリしました。特にあの洗髪液は素晴らしいですね!りんすしゃんぷー?を使って洗い上げた後は頭皮がスースーした爽快感があって気持ち良かったです!」


「そ、そう。良かった⋯ん?髪、生乾きになってない?ちゃんとタオルで髪拭いた?」


「あぁ、大丈夫ですよコレ位。放っておけばその内乾きます。それよりも、作った夕食が冷めてしまいますよ」


「いや、夕食のメインはまた温め直せば良いし、副菜はサラダだから大丈夫⋯というか食べる前に髪を乾かすよ!風邪引いたらどうするの!」


「ですが...」


なおも遠慮しようとするリヒトの手を引き、ダイニングのイスに座らせると、ローズマリーはさっきまで使っていた踏み台を持ってきて上がり、リヒトの背に立って火魔法と風魔法の混合によるドライヤー魔法をキラキラと輝く金色の髪に掛け、丁寧に乾かし始める。

最初は髪の乾燥に消極的だったリヒトであったが、次第に気持ち良くなってきたのか、尻尾をフサフサと揺らしていく。

時間を掛けて粗方乾かした所でドライヤー魔法を止め、ローズマリーは少し待つように言うと、足早に自室へ予備の櫛と髪紐を取りに行き、櫛を持ってきて再びリヒトの背に立って櫛で髪を整えてから、今度は冷風を髪に当て始めた。

その事を不思議に思ったのか、リヒトが質問する。


「髪はもう乾いたのに、今度は何故冷風を?」


「えっと~⋯そうした方が何となく髪が纏まりやすいから⋯かな?」


「なるほど~⋯そうなのですね~!」


前世の記憶には無い知識をどうやって伝えれば良いのか浮かばず、苦し紛れな返答をしたが、リヒトはあまり気にならなかった様で、素直に納得している様子にローズマリーは密かにホッと息をつくと、最後の仕上げに櫛で髪を後ろに纏めつつ、髪紐をキツめに縛り上げていく。思ってた以上にツヤサラ髪だったので、すぐに落ちないようにする為の措置である。


「⋯よし、こんなもんかな。あ!夕食を食べるのに邪魔そうだったからついでに縛っちゃったけど⋯大丈夫?」


「はい、大丈夫です!むしろお気遣いくださって、ありがたいです」


「そっか⋯よかった。さ、あとは夕食のメインを温め直すだけだから、そのまま座って待っててね!」


「はい、わかりました」


フワリと柔らかな表情で答えるリヒトを見たローズマリーは、内心で乙女ゲームのスチルのようなリヒトを見れて眼福に思いつつ、鼻歌を歌いながらテキパキと出来上がった料理を器に盛りつけ、ダイニングテーブルに並べていく。

今日の夕食のメニューは、自家製の白パン、具沢山のクリームシチュー、ミモザサラダ、キュウリもどきの塩揉み、デザートにアイテムボックスにあるウサギ型にカットしたウサギリンゴである。

本当はもう少し味付け等を工夫したかったが、現存する調味料⋯塩と胡椒と酢だけでは限界があった為、このようなラインナップになってしまったのだ。


(これは早急に醤油と味噌とみりんが必要だわ...森の奥地近くにあるいつもの不思議な採取場所兼畑に近いものがあるといいんだけど...)


などと考えている間にクリームシチューが温まったので皿によそってリヒトと自分の場所に置くと、ローズマリーはエプロンを脱ぎ、自分の席に座る。


「わぁ⋯いい匂いがします。美味しそうです!」


「さぁ、温かい内に食べましょう。いただきます」


「いただきます?とは何でしょう?」


「あぁ~⋯コレはクセで言っちゃっただけなんだけど、食物の生命を頂く為の感謝の言葉で、食後に言うごちそうさまもあるんだけど、それも感謝の言葉なんだよね。何で言っちゃうのかは、夕食を食べた後で教えるね」


「いただきます⋯ごちそうさま⋯なるほど、素敵な言葉ですね。私も気に入ったので、今後食事の際には使っていきますね。私も夕食後にお話したい事があるのでその時に」


「そうだね。じゃあ温かい内に食べちゃお!」


「はい。いただきます!それではまず白パンから⋯⋯ッ!?⋯ング⋯コレは、⋯モグモグ⋯柔らかいですね!こんな柔らかくて美味しい白パンは初めてです!ムグモグ⋯こちらの白いスープは⋯⋯⋯⋯ンゥ!!この白いスープも美味しいです!!ミルクのコクと鶏肉の脂と柔らかさ、野菜の旨みが合わさって素晴らしい!それからこちらのサラダは⋯」


「ハイハイ、まだまだあるからどんどん食べな~」


「はい!ありがたくいただきます!!」


その言葉を皮切りに、初めて食べる料理に称賛交じりの感想が溢れ出ていたが、おかわりを重ねる毎に感想は潰え、無言でブラックホールかと思うような食べっぷりを披露していく。

やがて、何度目かのおかわりをよそおうと鍋を見ると、多めに作っていたクリームシチューがスッカラカンになっている事に驚愕する。


「えっ!?あんなに沢山作っていたのにもう無い!凄い食欲⋯というか、その細い身体のどこに収まってるの⋯お腹まだペタンコじゃん⋯ヤバ⋯」


「アハハハハ⋯あまりにも美味し過ぎてつい...まだまだ入りますが⋯」


「まだ入るの?!?!?!」


「はい⋯ですが、これ以上はお恥ずかしいので、食べるのはやめておきます⋯ごちそうさまでした」


「お、おう⋯私もごちそうさまでした⋯リヒトさんの食べっぷりで私はお腹いっぱいだよ⋯」


そうしてローズマリーは使用後の食器を洗って片付け、食後のハーブティーとアイテムボックスからデザートのウサギリンゴを出すと驚かれたが、お茶を飲みながら話すと答えれば、リヒトは納得し、大人しくデザートを食べながらローズマリーの話に静かに耳を傾けるのであった。


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