第4話
翌日
いつものように起きたローズマリーは、身支度を整えてから朝食を摂り、食器を洗った後、清掃魔法で掃除をしようと、玄関前庭の窓を開ければ、鉄柵状の門扉越しに見知った生き物⋯大型犬サイズの金色のキツネがちょこんと大人しく座っていた。
「⋯何でココに?というか何の用だろう⋯お腹空いたとか?でも、野生動物?に食べ物をあげるのはマズイしなぁ⋯う~ん⋯とりあえず見に行ってみよう。こっちに向かってきても害意があれば結界が弾くだろうし」
そう結論付けたローズマリーは、玄関を出て門扉の前まで歩き、一定の距離を保って立ち止まる。すると⋯
「初めまして。この前は怪我をしている所を助けて頂き、ありがとうございます」
金色のキツネは感謝の言葉を伝えると、行儀良くペコリと頭を下げる。そして1拍置いてローズマリーは驚き、声をあげる。
「キツネが喋った!?!?!?!?」
「驚かせてしまい、申し訳ありません。どうしてもお願いしたい事があり、図々しいとは承知でこちらに参りました。あ、私、リヒトと申します。よろしくお願い致します⋯⋯あの⋯?」
「⋯⋯⋯⋯ハッ!驚き過ぎてどっか飛んでたわ⋯ええと、リヒトさん⋯だっけ?ご丁寧にどうも。私の名前はローズマリーよ。こちらこそよろしく。ここで立ち話も何だし、とりあえず入って」
一瞬意識がどこかへトリップし、宇宙猫顔になっていたローズマリーは現実に帰って普通の野生動物ではないと判断し、門扉を開けて喋るキツネ⋯リヒトを迎えると、リヒトはおずおずとしながらも門扉を潜り、敷地内に入る。
すると、先程の森の中とは違う、暖かで安らぐような空気と魔力が敷地内に満ちており、凝り固まっていた緊張感が和らぐのを感じ、気になって発生源が何処にあるのか目を凝らし鼻を嗅いでみると、目の前を歩く少女に辿り着く。
(なんと心地良い魔力と空気...疲れた心が安らいでいく⋯)
あまりにもこの空間が心地良過ぎたのか、リヒトは緊張の糸が切れ、パタリと倒れた。
「?、わっ!リヒトさん!?大丈夫ですか!?!?」
「すみません⋯ここしばらく飲まず食わずだったもので⋯」
「そうなの?!ちょっと待ってて!ってあぁ!ここで倒れたままなのは良くないわ!ちょっと失礼するわよ~!」
そう断りを入れてからローズマリーは身体強化の魔法を自分の身体に掛けると、リヒトの上半身を抱えて大きな体を引き摺りながら家の中へと入れ、リビングルームのソファに寝かせると、キッチンへと急ぎ、手を洗ってから手早く朝食に残ったジャガイモスープと、水、少し前に試験的に作った酵母液を使って焼き上げていた柔らかい白パンに野菜とハムを挟んだサンドイッチを作って横たわるリヒトの元へと運ぶ。
「簡単にサンドイッチとスープを持ってきたけど、どう?食べられそう?」
「すみません⋯体を起こせる体力も無いようで⋯」
「そう⋯食欲自体はあるのね?」
「はい、それはもちろん」
「う~ん⋯だったら⋯」
ローズマリーは何かを思い立ち、食器棚からスプーンを持ってくると、スープをフーフーと冷まし、リヒトの口元へと持っていく。所謂、あ~んである。
それに気付いたリヒトは驚きと興奮のあまり目を見開き、ブワリと全身の毛を逆立てるが、ローズマリーは何とかして食べさせようと集中している為まったく気付いていない。
「えっ、ちょっ⋯」
「どう?これなら食べられそう?」
リヒトは首だけを起こしてブンブンと縦に振ると、ローズマリーは少し冷ましたジャガイモのスープが入ったスプーンをリヒトの口元へと持っていき、ソッと流し込む。
「美味しい⋯です」
「良かった⋯サンドイッチも少しずつちぎったのを食べようね」
「ハイ⋯ありがとうございます」
その後、順調に食事を食べ進め、お腹が満たされたのかウトウトとし始めていき、そのままソファに横たわったまま眠ったリヒトを見て、ローズマリーは静かな足取りで自室へと戻り、予備のブランケットを取り出し、清掃魔法で綺麗にしてからリヒトの元へと持っていき、フワリと掛ける。
「おやすみなさい⋯ゆっくり休んでね」
小声でそう伝えると、ローズマリーは静かな歩みで傍を離れ、お馴染みの蓋付き籠とお金が入った皮袋を持ち、起こさない様にゆっくりと玄関のトビラを開け、リヒトにもっと滋養のある物を食べさせようと森の中にあるいつもの採取場所と村の食料雑貨店へと出掛けたのであった。
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