第3話

あれから、簪の受注と作成以外は変わらず穏やかな日々を送っていたローズマリーであったが、唐突に事件は起こった。

事件といっても血生臭い物ではない。ただ単に、日課である森散歩をしていたら、金色に輝く大きなキツネが傷だらけの状態で倒れているのを発見しただけなのだ。


「わぁ⋯綺麗⋯⋯じゃなくて、どうしよう⋯明らかに普通のキツネじゃないよね⋯魔物かな?いや、でもそういう感じしないし⋯助けたいけど、助けたら面倒な予感が⋯う~ん⋯⋯⋯まぁ⋯いいや!なるようになるでしょ!」


どうにかなれの精神でローズマリーは回復魔法を掛け始め、ゆっくりと傷を癒していく。傷をゆっくり治療するのは、急激に癒すと逆に身体に負担が掛かるかもしれないと判断したからだ。

それから長い時間を掛けてようやくキツネの傷を塞いだローズマリーは、キツネの身体に付いた土や血を清浄魔法で綺麗にし、数時間は保つ結界魔法をキツネの周りに張ると「今度からは気をつけてね」と言い残してその場を立ち去る。

幸い、転生して回復魔法が使えて助けられたから良かったが、魔法が無かったらローズマリーは自然の摂理に従って放置していただろう。

ローズマリーはただ優しいだけの女の子ではないのである。


「⋯さ~て、材料は確保出来たから、帰ったら念願の天然リンス配合シャンプーでも作ってお風呂入ろうかなぁ~⋯あ、その前に土魔法で浴槽と洗い場と脱衣所を作ろう!今世の洗い場狭いんだよね⋯そうと決まったら早く帰ろう!」


安定の切り替えの早さを発揮したローズマリーは、スキップしながら自宅へと帰り、早速ダイニングでボウルに水と好きな香りのハーブ、蜂蜜、レモンぽい果物、泡が出る不思議な葉を混ぜ、更に探知魔法と鑑定魔法を駆使して手に入れた手のひら大の種数個から圧搾魔法で抽出した油を加えてよく混ぜ込み、別のボウルとボウルに重ねる様に置いてあるザルに使わない清潔な布を被せ、その上から混ぜたリンス配合シャンプー水を入れて濾していく。

不純物が無いのを確認して煮沸乾燥した瓶に入れれば完成だ。

最初からそんな事しなくても食器用洗剤みたいに創造魔法で作れば良いのでは?というツッコミはあるだろうが、ローズマリーは異世界転生あるあるを楽しみたいので、敢えてそうしなかったのである。


「天然リンスシャンプー完成~!次はお風呂作ってこよう~」


ローズマリーはダイニングテーブルの上を片付け、外へ出て家の裏手にある使っていない畑に着くと、土魔法を発動させて畑を潰して真っ平らにしてから土台、床、排水機能、浴槽、洗い場、脱衣所、壁、窓枠、出入口、天井、と言った順番に大まかに作って形を整え、崩れないようにガチガチに固め、表面を滑らかにしてから魔法で補強した後、水魔法と火魔法の混合魔法で調度良い温度となったお湯を出来たばかりの大きな浴槽へと注ぎ⋯


「やったー!お風呂完成~!これで思う存分全身洗える~!湯船に浸かれる~!早速、着替え持って入っちゃお~!」


そう言うとローズマリーは足早に着替え出来たばかりのリンスシャンプーを持ってくると、脱衣所で服と下着を脱ぐ。

洗い場へ入るとドア代わりに結界を張り、掛け湯をした後、持ち込んだ木製の櫛で髪を梳かし、魔法で作った無限お湯玉を頭上に固定すると、お湯玉の底からお湯が勢いのあるシャワーとなって髪を濡らしていく。


「ひゃっほうー!久しぶりのシャワー気持ち良い~!シャワー最高~!」


久しぶりのシャワーに嬉しくなり、テンション高めに隅々まで髪を濡らし、十分に濡らしきった所でシャワーを止め、作ったリンスシャンプーを髪に垂らし、地肌をマッサージしながら泡立てていく。


「お?おおぉ!初めて作ったけど結構泡立つ!多めに入れたミントのメントール成分もしっかり効いてるっぽくて、スースーして気持ち良い~!リンスシャンプー素晴らしい~!!」


数分程モコモコと泡立てつつしっかり洗った後、更に数分掛けてシャワーで泡を洗い流したローズマリーは、髪を絞って水を切り、持ってきた簪を使ってお団子ヘアーに挿すと、もう一度掛け湯をした後にようやく湯船へと身を沈めていく。


「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙~⋯極楽極楽~⋯」


およそ子供とは思えない声を漏らしながら湯船に浸かるローズマリーは、ゆったりと身を委ねつつ、次に何を作るかを考えていた。


「リンスシャンプーは一応成功?したし、次はやっぱり石鹸だよね~。固形石鹸より液体石鹸の方が個人的には好きだし使い勝手が良いから、明日早速作ろう~。材料は泡が出る不思議葉っぱと、今日抽出したオイルと、香りは何が良いかなぁ⋯」


等々色々と考えながら、ローズマリーは心ゆくまでお風呂を堪能していったのであった。


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