第2話

数日後


そんな毎日を過ごしていたローズマリーは、たまには前世でハマって作っていた物をこの世界で再び作ってみようと思い立ち、外へ出て森の中で落ちている枝をいくつか拾い、家の敷地内へと持ち帰って風魔法で余計な皮と枝を削ぎ落とした後、水魔法で水分を抜き、凄まじい速さで形を整えていく。

大体形がそれらしい物になってきたら更に細かく整え、魔法でヤスリがけする。

片方の先端を丸みを帯びさせ、もう片方の戦端付近は花の形に整え⋯


「出来たー!なんちゃって花簪~。素人にしてはまぁまぁ良い出来なんじゃない?欲を言えばシャラシャラ~と雫とか花弁みたいな物を付けてみたいけど⋯面倒だから良いや。」


仕上がりに満足したローズマリーは早速髪をハーフアップにしてお団子を作ると、出来たばかりの花簪を挿し、自室にある姿見で確認する。


「⋯普段使いするのには良いわね。夏場は蒸し暑いから役立ちそうだなぁ⋯さて次は何を作ろうかな~⋯編み物をするには暖か過ぎるし⋯う~ん⋯ま、その内何かしら思いつくでしょ」


やはり切り替えの早いローズマリーは次に何か思いつくまで家事をこなすと、そろそろ食材の買い出しと薬草を卸しに行こうと思い立ち、蓋付きの籠とお金を持って外へ出て、家の敷地外⋯鉄柵状の門扉前から施錠代わりに結界を張り、村に向かう為、森の入口に向かって歩いていく。

ただ歩くのもつまらないので、前世でよく聴いていたアニソンやキャラソン、学生時代に好きだった歌等を鼻歌だったり時々口ずさみながら、いつの間にか肩や頭にいた蝶や小鳥、リス達をお供に目的地に向かって歩き続ける。

ローズマリーは気付かなかったが、無意識の内に魔力を乗せて歌っていた為、歌を聴いた警戒心の強い小動物達は気を緩ませ、引き寄せられていたのだが、それに気付くのはまた別の話。

そうこうしている内に村の入口に着くと小鳥達とは別れ、村の中へ入って先に薬草を卸しに薬屋へと向かう。

薬屋に辿り着くと慣れた様子で入り、店主の男性と二言三言会話を交わしながら、籠の中で発動させたアイテムボックスの中から薬草束を幾つか取り出し、お金を貰う。


「いつも状態の良い薬草をありがとうね、助かってるよ。また近い内に街から行商が来るらしいから、次も頼むよ」


行商はこの村から1時間ほど離れた所にある街から時々来ては、薬や日用雑貨、服飾品、食料品の売買をしたり、街や王都で何が流行ってるかを知らせてくれるので、村にとってはなくてはならない、ありがたい存在だ。


「わかった。また良い薬草があったら摘んで来るね!買取りありがとう~!」


にこやかに薬屋を出たローズマリーは、次の目的地である食料雑貨店に向かい歩きだす。

途中、仕事休憩と思われるおじさんやおばさん達とちょっとした雑談をしたりしつつ、食料雑貨店に着くと、扉を開け、店主である女性に挨拶しながら必要な食料を手に取っていく。

粗方食料を抱えて会計カウンターへと持っていき、お金を払う為に皮袋の財布を籠から取り出そうとしていると、店主に声を掛けられる。


「マリーちゃん、その髪に刺さってる棒は何だい?」


「あぁ、コレ?簪って言って、さっき試しに作ってみたんだ~。」


「へぇ~、カンザシ⋯良いねソレ。もっとよく見せてくれるかい?」


「うん、良いよ!はい。ニスとか絵の具とかがあればもう少し良い感じに出来るんだけど、面倒だからそこまでにしちゃった」


お団子髪に挿していた簪をローズマリーから受け取った店主はシゲシゲと見つめる。

一見するとただの棒だが、髪に挿した途端に華やかさが生まれるのが不思議であり、同時に手軽にお洒落が出来て画期的な物だと感じ、次第に自分も欲しくなってきた店主は、ローズマリーに交渉を持ち掛ける。


「ねぇ、マリーちゃん。この簪、いくらで作って売ってくれる?」


「えっ?」


「この簪、とても可愛いから、私も欲しくなっちゃってさ⋯で、いくら出したら売ってくれる?」


「いや、そんなに欲しいんだったらあげるよ。材料も手間も掛かってないし⋯」


「駄目だよ。こんなに良い物には相応のお金を払わなきゃ。お互い失礼な事になっちまうんだ」


「そうなの?」


「あぁ、そうさ。だから、いくら位で作って売れるか教えてくれるかい?」


暖かだが真剣な眼差しで教えてくれる親切な店主に応えようと、頭の中でグルグルと考えるローズマリーであるが、いくら考えを巡らせても妥当な金額は出ず、最終的に出した答えは⋯


「こういう事は初めてで不勉強だから、今回はおばさんの言い値でお願いします。次回また何か作ったら金額を考えるので!」


「っ、アハハッ!マリーちゃんにはまだちょっと取り引きは難しかったか。でも、私が何を言いたいのかが伝わって良かったよ。そうだねぇ⋯依頼料と制作時間と材料費込みだと⋯⋯コレ位かねぇ」


店主が棚をガサゴソと探って取り出し、カウンターに置いたコインを見て、ローズマリーは驚愕する。


「えっ、銀貨!?こ、ここここんなに?!?!」


前世・日本円換算するとおよそ10万円。いつもローズマリーが村の中で買い物の際に使ったり、薬草を卸した際に貰えるお金は鉄貨(1円)、小銅貨(10円)、銅貨(100円)、たまに高くて小銀貨(1000円)辺りがいくつか混ざった物が普通である為、簪1つの注文だけで銀貨10枚が出てくるのを驚くなというのが無理からぬ話だった。


「こんなに沢山は貰えないよ!せめて、銅貨10枚で⋯」


「それは駄目だよ。言い値で頼むと言ったのはマリーちゃんなんだから、大人しく貰っときな」


「でも⋯」


その後も元日本人の記憶があるからか、どうしても身の丈以上の物を貰おうとすると遠慮してしまいそうになるローズマリーに、店主は諦めずに粘り強く説得し、最終的にローズマリーが折れて受け入れる形で決着がつき、見せていた簪を返して貰った後、買う予定だった食材を購入して帰路についたのだった。


その後完成した花簪を納品した後、またすぐに注文が発生して徐々に村の女性陣に流行りだし、注文が殺到したのは言うまでもない。



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