七十三日目

 七月になった途端、待っていたかのように暑い日差しが燦燦と照りつけていた。

 夏休みが恋しい。

 それでも午前中はまだ過ごしやすく、こうして図書館のテラス席で優雅に勉強することだってできないこともない。


「そういえば、バスケ部がインターハイに出場するんでしょ? すごいよね」

「まあ、あの比叡先輩がいるからね。遊びで『1on1』やったけど絶対勝てないって悟っちゃたよ」

「泰山君って比叡さんと仲が良いんだ。顔が広いね」

「球技大会の時に仲良くなって。面識はその前からあったんだけど」


 四月に告白してフラれた時に。とは、彼女には言えず。

 ――牛久莉子。

 クラスは違うけど同じ一年生。メガネを掛けた可愛い女子である。

 新発田などの男たちと一緒にいるのが多かった俺の高校生活が、ついに女の子と時間を過ごすまでにレベルアップした。

 いや、そんなことを言うと丹生さんや比叡先輩に殺されるかもしれない。最近は話す機会も増えたし、学校内だけだが先のバスケのように遊んだりもする。

 ただ牛久さんは彼女たちとはタイプの違うおとなしい子だと言いたかっただけで他意はないんです。と、心の中で土下座をしながら早口で言い訳をしておこう。


「定期考査やだなあ。赤点採ったら夏休みも学校に来ることになっちゃう」

「ははっ、牛久さんなら大丈夫だよ。大学目指して頑張ってるんだから」

「まだ一週間も頑張ってないよ……。もっと早く泰山君とお話すれば良かった……」


 牛久さんとの出会いは偶然であった。俺が新発田にサンバを披露していたらヒートアップしすぎて足を挫いてしまい、薄情な野郎に一人で保健室に行けと言われたのがキッカケだ。

 その保健室で彼女と二人っきりになり少し話をした。

 俺は覚えてなかったけど高校に入学するよりも前、入学試験を今の学校に受けに来た際に俺たちは出会っていたらしい。人に酔った牛久さんを俺が介抱したのだとか。

 その時に俺のことを好きになった、と笑い話のように彼女は言った。

 入学した当初に俺から告白されていたらわからないが、今は付き合いたいという感情はなく憧れのようなものを抱いてくれているらしい。とても光栄なことだがむず痒い話でもある。

 でも、俺は俺で牛久さんを尊敬している。

 好きという感情に自分で整理して、今こうして仲良くしてくれている。

 俺は好きという感情を知った時にどうなってしまうのだろう。想像もできない。


「泰山君?」

「ん、ああ、ごめん。ぼーっとしてた」

「もうすぐお昼だから集中力も切れてきたね。もう帰る?」

「じゃあ、残りこの練習問題だけやろうか。その前にトイレ行ってくるよ」

「うん、いってらっしゃい」


 牛久さんに見送られて俺はテラス席から図書館の中に戻った。受付の横を通って外に出た所にトイレがあるのだが、


「あれ?」


 立ち並ぶ本棚の前に、見知った顔を見つけた。久しぶりに見るその横顔はやはり美しい。

 女性運が好調なことを良いことに俺は彼女に話しかけようと思い立った。どうせなら驚かせようと忍び足で背後に回る。

 そうして、我らが生徒会長の肩に手を置いた。


「天埜さん、お久しぶりです」

「きゃあ!」

「いってえ!」

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