第19話 船


「私達のアリスは大丈夫かしら?」

 白い部屋に声が響く。

「大丈夫。僕達の娘だからね」

 男の声がする。アリスの父親だろう。


「答えになってないわ」

「しょうがないだろ。あの男に託したんだから」

 あの男とはユーヤのことだ。

「そのうち僕達のところに来るさ」

「本当かしら?」

「アリスも成長してるといいんだがな」



「アリス、車から顔出さない」

「だって風が気持ちいいんだもん」

 車に乗ってようやく西の港町が見えて来た頃、アリスは風を感じている。

「目立つから駄目!早く中に入りなさい!」

「ちぇー、気持ち良かったのに」

 本当にアリスはワンパクだ。


「さて、ここから歩いて行こう」

「そうね、あまり目立つのもね」

「えー、あるくのやだー」

 最近は我儘を言って困らせてくる。

「じゃーアリスだけ置いてくぞ?」

「それもやだ」

「じゃーあるこーな」

「はーい」

 中々に疲れるやりとりだ。


 港町はやはり高い塀のせいで中が見えないが、出入りは多く賑わっているのがわかる。

 中に入ると大通りに面したところは露天が沢山並んでおり、どこも威勢のいい声が聞こえてくる。


「わ、わ、すごいねー」

「まだ凄いのが待ってるわよ?」

 船のことか、船の動力は風か?魔生石か?

「俺も楽しみだが先に宿だな」

「はぁい」


 宿を決めた俺たちは散策がてら海に行く、透明度の高い海だ、だがクラゲのようなモンスターがみえるな。

 桟橋を歩きながら船に近づく。

「おら、船になんのようだ?」

「隣のガンドラ大陸に渡りたいんだがどこで交渉したらいい?」

「なら商会があるからそこでだな。あそこに見える建物がそうだ」

 遠くに一際大きな建物がある。

「この船は何で動いてるんだ?」

「魔導船なら魔生石だろ」

「そうか、それじゃ商会にいってみるよ」

「あぁ、客なら乗せてやれるしな」


 歩いて商会に入ると、ゴッタゴタだ。

「退けこのやろう」

「おまえこそ!この荷物が先だろうが!」

 荷物だらけで通る隙間がない。

「お前らなんだ?客なら横のほうだぜ!」

「あ、ありがとう」

 外に出て横の扉を開くとそこもさほど変わらなかった。

「もうちょっとまかんないか?」

「駄目です!」

「早くしろよ!こっちは急ぎだ!」

「わぁーてるよ!こっちだって急ぎだ!」

 うーん。この中に入っていくのか。

 そんな場面を見ているとちょいちょいとおばちゃんが呼んでいるのでいってみる。

「お客さんかい?」

「はい。ガンドラ大陸まで三人なんですが」

「はいよ。三人ね。百五十万ゼルだけど大丈夫かい?」

「はい。百五十万ですね、ここにあります」

「あら。ふしぎなスキルね。明日九時出発の二等席の301号室ね」

 鍵と乗船券を渡される。


 これでガンドラ大陸までの道筋はできたな。

「ふーねふねふね」

「明日な。それよりアビー?買い物はいいのか?いりそうなものはないか?」

「酔い止めくらいかしら?」

「んじゃ買ってから帰るか」

 酔い止めを買って宿に帰る。


 下の酒場で飯を食う。

「んじゃガンドラ大陸は獣人が多いのか?」

「そうね、獣人は喧嘩っ早いから気をつけてよね。あと軍もあるわ、凄いわよ」

「どう凄いんだよ」

「全体で魔法を使うの、そこらの魔素が無くなるくらいよ」

 ナノマシンの製造が追いつかないくらいか。

「それは見てみたいな」

「まさか軍に喧嘩なんか売らないでよね」

「分かってるっつーの」

 焼き魚を美味しそうに食べてるアリスを見て、片肘をつく。

「アリスも聞いとけよ?」

「あい」


 大型の船に乗る。

「アリス、走るなよ?」

「わ。分かってるし」

 少し怖がっているな。

「アビー、見といてやってくれ」

「ユーヤは?」

「部屋にいるよ、なんかあったら呼んでくれ」

「えー、私もそっちがいい」

「ならアリスも連れて来てくれよな」

 一人で船内に入っていく。


「で?どこのどなたさんかな?」

 俺をつけてくるやつなんか大体わかるが。

「よぉ、ねぇちゃん二人連れてんだから一人貸してくれよ」

「駄目に決まってるだろ?」

 剣を取り出す。

「ヤル気かよ、プログあむ」

「言わせるかよ。アイスアロー」

 手足を氷の矢で射抜く。

「ひぃ。、わ、わかった、金を払うから」

「金じゃねえんだ、あいつらは家族だ」

「わ、分かった。手はださねぇよ」

 つい家族にしてしまったがいいだろう。


「家族ねぇ」

「聞いてたのかよ、とっとと部屋に入れよ」

「パパが入っとけってさ」

「はーい」

「ちっ!お前のせいだからな」

 男を蹴って部屋に戻らず甲板にでる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る