第17話 盗賊
今日も車での移動だ、俺の知ってる音楽CDを創造魔法で作って流している。
二人ともノリノリで聴いているので退屈はしないだろう。
ここまでくるのに相当な距離を走ってきたと思うがまだ着かない。やはりゲーム感覚ではこの先やっていけないだろうな。
車に乗ってるとモンスターも盗賊も寄ってこない。やはり、未知のものは怖いらしい。
と思っていたんだが。
「ここは通さねえ!有金と女、そしてその乗り物を置いて行ってもらう」
木を斬り倒し倒木を前にして進めない。
「嫌だと言ったら?」
「死ぬしか無いよな?」
“プーププープーーー”
クラクションを、鳴らしてみるが耳が痛かっただけのようだ。
とりあえずバックでもときた道を戻ると追いかけてくる盗賊。
「アイスアロー」
アビーの魔法で盗賊が三人倒れてしまう。
ここまで人を殺したことがないが殺すべき時なのだろう。
距離が一旦離れたので降りて、身体強化、筋力強化をする。
剣を持ち、十数人いる盗賊に向かっていく。
一人。二人と剣で斬っていくと気持ちが悪くなるが、やらなきゃやられる。一回腹は刺されているがヒールで治している。
最後の一人、さっき大声で俺たちに向かってしゃべっていたやつだ。
「まだ、殺しちゃダメよ」
「分かってる。アジトはどこだ?」
「誰が言うかよ!」
足を刺す。
「生命だけは勘弁してやるが?」
「……森の奥、案内する」
車と死体をアイテムボックスにいれ、歩いて着いていく。足は震えて剣を取り落としそうになるが、それでもやらなきゃいけない。
倒木もアイテムボックスに入れてしまう。
「…こんな化け物に勝てるかよ」
「うっさい!あんたはアジトまで連れていきな!」
アビーが俺の代わりに言ってくれる。
アジトに着くと探知でまだ盗賊がいることがわかる。
「親方!助けて下さい!グエッ」
また一人殺した。
アジトから出てくる盗賊を魔法で倒し剣で斬り倒す。
アビーも何人か倒している。
ようやく静かになった後、俺は自分のしたことに震えて吐いた。吐瀉物にまみれ泣き止むまでアビーもアリスも遠くに行ってくれていた。
「クリーン」
ようやく落ち着きやはり人を殺した罪悪感なんかがあるが、なんとか普通に振る舞えるようになる。
アジトにはまだ何名かの生存者が居るみたいだ。
「あー、もう大丈夫だ、アジトを見に行こうと思う」
「あんまり無理しない」
「大丈夫?」
「なんとかな」
小屋になっていて中に入ると据えた臭いがする。女が五人に男が一人?男はいまにも泣きそうな顔で「こ、殺すぞ」と女にしがみついている。無詠唱でアイスランスを発動させて殺す。
「大丈夫ですか?」
「……はい」
ほとんど裸の女性だけだからアビーに任せて死体をアイテムボックスに、あとは小屋の中を見てまわる。
金貨や銀貨が詰められた袋や、宝石の類、あとは食料品など、いろんなものが出てきた。全てアイテムボックスにいれると、アビーが女性に服を着せて戻ってきた。
創造魔法で妊娠を確認し、避妊もしておく。
外には馬車があり、馬もいた。
馬車に乗れるのはアビーが乗れると言うので任せる。近くの街まで行く予定だが日が暮れ始めているのでここで夜を明かす。
昨夜のうちに一人自殺しかけたが止めた。
責任が取れるわけじゃないがせめて助けた命を失くしてほしくなかった。
翌朝、八人を乗せた馬車で近くの街まで行く。近くといっても半日はかかる。
「あの、助けていただきありがとうございました」
「いえ、もっと早くこれたら良かったんですが」
「……」
はやく次の街に着かないかな。
次の街についたのは夕方、ようやく解放されると思いきや尋問が続く。
「で、こいつらが盗賊ね」
「はい、顔は全員確認できますよね?」
「はぁ。こいつらの中に我が中隊の奴がいなければよかったのに」
「はぁ?ふざけるなよ!こんなことしといて中隊がどうの言ってる場合かよ!」
この軍隊長と言う人は自分のことで頭がいっぱいなんだろう。
「何もしないなんて言ってないだろ?ただこいつとこいつをいなかったことに」
「できるのか?お前は俺にそれを黙認しろと言ってるが俺はもうブチ切れそうだぞ」
魔力が暴発しそうになっている。腹の底から頭にきたのは初めてだ。
「わ、わかったよ。はぁ、領主になんて説明すれば」
「はぁ、はぁ、はぁ、」
「そんな怒るなって、分かってるちゃんとするから」
「やらなかったらここらいったいがどうなるか知らないからな」
ようやく出てきた俺にアビーとアリスが寄ってくる。
「説明はあとだな。今夜の宿を探そう」
「もう探してあるから、今日はお疲れ様」
「あぁ、アビーもアリスもお疲れ」
「私は何もやってない」
「それでもいたんだ。見てただけでも辛いだろ」
俺も今日は眠れそうにないな。
宿に向かい部屋で一人、今日殺した人間の顔がこびり付いて離れない。
「はぁ、覚悟はしてたはずなんだが」
ここにきてからなんとか人を殺さずに来れたのが、急に殺さないといけなくなるなんて。
「ここが日本なら俺は刑務所行きだ」
過剰防衛?かな、いや。相手は殺しにきてたんだ。
そんなことを考えていると朝が来ていた。
一度領主にも見てもらわなければいけないんだっけ。
重い身体を動かしてその場に行くと、
「な、なんてことをしてるんだ?」
「いやぁ。昨日ボヤがあって顔が焼けたみたいだなぁ」
「お前……復元」
焼けた顔が戻っていく。
「お、お、お、」
「お前は自分のことだけか?考えているのは?こいつらのせいでどれだけの人が不幸になったのか分からないのか?」
「あ、お、俺じゃない」
顔の青くなった軍隊長ににじり寄る。
「そこまで!」
どうやら領主が来たらしい。
「君の手でそいつを殺してはいけない。グエル君、証拠隠滅で君には裁判に出てもらうよ」
軍隊長はへたり込んだ。
それからはさっと目を通して報奨金を貰う。
女達にも普通の生活に戻れるように手配されているそうだ。
「やっと終わったか」
「お疲れ様」
「もう一日宿をとってあるから今日もゆっくり休みなさい」
アビーには感謝だな。
ようやく眠れるようになったのは午後になってから。それから夕方に起きて飯を食いまた寝た。
朝起きると意外とスッキリしていて、そこまで悪夢を見るなんてこともなく楽になっていた。
「おはよ」
「おはよう、ちゃんと眠れたようね」
「おはよ!元気出た?」
「あぁ、元気でたよ」
もう三日も経つんだからな。
「イケメンが台無しだったわよ?」
「もう大丈夫だよ」
「否定しないのね」
「あはは」
さぁ旅を続けようか。
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