第15話 ダンテ
朝からヤプリさんに起こされ、外に出るとズングリむっくりした男がソワソワしていた。
「おぉ、其方が鉄の箱馬車の持ち主か!見せてくれ!」
「あ、あぁ、」
車を出すと齧り付くようにみている。ボンネットを開けると中を覗き込み何やら唸っている。
しょうがないので説明書を創造魔法で出してやると、その紙を見ながらウンウン唸っている。
「すいません、ダンテ様は国一番の開発者でして、種族的にもああなったら分かるまで動かなくて」
「種族ってドワーフか?」
「そうでございます」
へぇ、はじめて人間以外の種族を見たな。
エルフや獣人もいるのかな?
「これバラしていいか?」
「ダメだろ」
「じゃよなー、そしたらここから作って」
またブツブツ言い始めた。
「まぁ今日一日は置いとくからじっくりみてくれ」
「ありがとうございます」
ヤプリさんは丁寧にお辞儀したが、ダンテは手を上げただけだった。
「あっ、そっちよりこっちのほうが分かりやすいんじゃないか?」
バイクを出して説明書も作ってやる。
「おう!なんと美しい!」
ダンテはバイクに齧り付いて説明書もそっちのけで、作りを見ている。
「んじゃ俺はこれで」
「はい、ありがとうございます」
キーは抜いてあるから大丈夫だろ。
今日は町に買い物だ。
アビーとアリスはいつもと違う服装で化粧までしているようだ。
「あ!こ、これ、最新モデルの杖」
「ダンテじゃないんだから齧り付く事ないだろ」
杖と言っても腰くらいまでの短いと杖だ。
ファンタジーだからもっとでかいのを想像してたよ。
価格が二百万と倍するが、ここは買ってやるしかないだろ。
「アビー買ってやるよ」
「ほ、ほんと?!」
「欲しいやつなんだろ?」
「狙ってたのはこの二個古い型なんだけど」
最新モデルの方が良いだろ?
「ほら買ってやるから入るぞ」
「は、はい」
「最新モデルはプログラム百まで使えるようになっておりまして、しかも無詠唱!」
「おお!」
「そして盗難防止に使用者制限もついております」
「おお!」
「この軽さでこの性能は他にございません」
「おお!」
さっきから店員の言葉におお!しか言ってないぞ。
「んじゃそれ買うんで」
「はい!ありがとうございます」
抱き抱えて嬉しそうにしているアビーには他が目に映らないみたいだ。
「アリスは欲しいものないのか?」
「欲しいもの?なにがあるの?」
「そっか、食い物だとかは別だし、女の子ならネックレスとかかな?」
「じゃあネックレス」
あどけない表情で笑うアリスは歳よりも若く見えるかな?
「この緑のがいい」
宝飾店でみた緑の宝石のついたネックレスを買ってやる。
つけてやると嬉しそうに回って見せた。
「ありがとうユーヤ」
「どういたしまして」
「あ、ありがとうユーヤ」
「おせぇけどどういたしまして」
アビーはバツが悪そうにお礼を言ってくる。今まで欲しかったんだからよっぽど嬉しかったんだろうな。
あとは俺の服やアリスとアビーの服を見て買い足していく。もちろん食事もしたし、食べ物もアイテムボックスにいれてある。
「今日は最高の日だわ」
「うん!面白かった」
「そりゃ何よりだよ」
そろそろダンテは気が済んだかな?
「どうですかぁ?」
「すいませんすいません」
謝るヤプリさんの後ろには、ダンテが。
「…ま、まぁ、車は無事みたいなんで」
バイクは半分くらい分解されている。まぁ想像の範疇だな。
サッと車をアイテムボックスにいれて、ダンテに聞いてみる。
「なんか分かったのか?」
「お、おう、すまんかった。欲望に負けてしもうた」
欲望に負けて半分くらい分解するのか、
「分解してしまったのはしょうがないけどどうすんだ?」
「買い取らせてくれ」
「そりゃ構わないが新しく作れそうなのか?」
ダンテは胸を張ると、
「作ってみせる」
「んじゃ鍵を渡しとくよ」
「ヤプリ!」
「はい!」
「一千万ゼルでこれを買い取る」
「分かりました」
まぁ、この世界に一台しかないからこれでも安い方か。
「それでいいよ」
「あ、ありがとうございます」
「ダンテだ」
ダンテから握手を求めて来た。
「ユーヤです」
しっかりと握手を結ぶ。
「このバイクという乗り物は絶対に流行らせてみせるわい」
「ご自由にどうぞ」
「ワハハ、この煮えたぎる魂が熱いうちにバイクとやらを完成させてみせるぞ!」
「頑張って下さいね」
「おう!」
ダンテとヤプリはバイクを持って去っていった。
次の日には一千万ゼルをヤプリが持って来て、ダンテなことを聞くとあれから寝ずにバイクと戯れているらしい。
これぞドワーフというところか。
今日からまた車での旅を始める。
アビーはあれから杖を手放さないし、アリスはネックレスを肌身離さず持っている。買って良かった。
車の旅は順調に進んで、夕方には大きな街に到着した。今日はここで宿を取る。最初は車で行けるところまで行こうと思っていたが、途中に街があるなら寄って行くことになった。
「入っていいぞ」
冒険者証を見せるとすんなり入れた。アリスにも作ってやっといて良かった。
「音楽の街、リトライにようこそ」
ピエロが街に入るなりパフォーマンスを始める。楽団が隣で音楽を奏でる。
「すごい」
アリスが目をキラキラさせて楽しんでいるので最後まで見て千ゼル銀貨を投げ入れさせる。
「ありがとう可愛いお嬢さん」
ピエロは一本の花を手から出すとアリスに渡す。
「アリス?面白かったか?」
「うん!凄かった」
ポッドの中にどれくらい居たかは分からないが、これも社会経験だ。
音楽の街ったくらいだから酒場も音楽が流れてるんだろうな。
宿を取ると早くも下の酒場では吟遊詩人が歌を歌っている。アリスに急かされ下に降りて吟遊詩人の歌を聞く。軽快なリズムだったり、重厚な音だったりで聞いてるこっちまで楽しくなる。酒も進む。
音楽の力は凄いんだと感心した。ギターなら弾けるけどあんなふうに感情を乗せて弾いたことはない。
翌日、アリスと同室だったアビーが寝不足なのは仕方なかった。
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