第2話 魔法
親は株式会社キタオオジの社長として何不自由なく育てられてきた。全てを与えられて来て欲というものがなかった。だが別に努力はする。褒められたいとか認められたいではなく、普通のことだからだ。
趣味はバイクでのツーリング、身長は百七十八、彼女いない歴は一年だ。
そんな北大路は今、猪に追いかけられていた。
「デカ過ぎるだろ!あ、アイスバーン」
地面を凍らせ猪の足を滑らせる。滑って来た所に鉈を振り下ろせば猪は絶命した。
「はぁはぁ、魔法も使い所だな」
血抜きをし、毛を剥ぎ、臓物は穴を掘って埋める。
皮を剥ぎ枝肉に切り分けていく。
もちろん魔法あってのことだ。
「味噌も塩もないから焼いて食うくらいか」
それでも思ったより臭みもなく美味かった。
「サバイバル本を読んどいて良かったな」
日本で暮らしていれば猪なんかを解体することなんてなかっただろう。
「猪以外にも鹿なんかもいるだろうし、ここで生活するにしてもまぁ何とかなるだろ」
肉を頬張りながら眠くなったら見つけてあった洞穴で夜を明かす。
「ふぁあ、よく寝たな。太陽が昇って来ているからまだ早朝だな」
昨日の猪を食い、今日は探索を試みる。
交友関係も広くラノベも読んだ覚えも、ゲームをすることもあった。
探索魔法を広げていく、マップのようなホログラムに点々と赤や青の点が増えていく。
「こういう時は赤が敵だな。黄色もあるな」
青の四つの点が赤の多い点に囲まれている。
「助けに行こう!言葉が通じればいいが」
優弥は走って近くの木陰からことの成り行きを確認する。
「プログラム十二セット、実行」
炎の矢が三本ゴブリンに突き刺さる。
「プログラム一セット、実行!うおぉ!」
剣を持った男が素早い動きで敵を蹴散らす。
いまのが詠唱でファイヤーアローに身体強化って感じか。
「加勢はいるか?」
「お願い!」
俺は剣を作り出すと身体強化をする。
「せぁ!せぃ!」
ゴブリンに斬りかかるが数が多いな。
「アイスバーン」
裸足のゴブリンは張り付いてしまったようで動けない。ゴブリンを斬りつけていくと残りは逃げていった。
「手助け感謝する。それにしても強いな」
「強いのにイケメンだね!わたしケイト」
「俺はダダンだ、そっちの怪我しているのがホープ」
ダダンは高身長で黒髪短髪の歴戦の戦士、ケイトは猫のような瞳にオレンジの髪色をポニーテールにしてある。身軽な弓師ってとこかな?ホープは長髪で青い髪、イケメンだが今は怪我をしているらしい。
「俺はユーヤだ、ヒール」
「な、詠唱なし?無詠唱か?」
「ん?まずかったか?」
「いやありがたい」
「あ、あの私はアイリーンです」
おずおずと出て来たピンク髪の女の子、おっとりした感じの瞳は大きくて可愛い。服装は魔術師か?
「助かったぜ!俺がホープな!」
身軽な軽装だから斥候かな?
「あぁ、よろしく」
「無詠唱で魔法を使いこなすとは」
「珍しいのか?」
「いや、だが初めてあったな」
「そうか、出来ればプログラムを教えて欲しい」
変な顔をされたが命の恩人ということで俺の寝床で教えてもらう。
「こんなとこだね」
「そうかわかった。ありがとう」
「どういたしまして」
アイリーンに教えてもらった。
他の人は猪肉を美味そうに食べている。
「塩を分けてもらってありがとう」
「なーに、猪肉に比べたら安いもんだよ」
岩塩を一欠片もらった。これで食事が上手くなる。
「ユーヤは街に行かないの?」
「ここがどこかも分からないんだ」
「なら街まで一緒にいこうぜ!」
ホープはチャラそうなのに気を遣ってくれる。
「出来れば宜しく頼む」
「そう堅苦しい挨拶は抜きにしない?」
「そうか?ならたのむよ」
「うん!そっちの方がいいよ」
ケイトが愛想のある顔で笑う。
日が暮れ始め今日はここで一夜を過ごす。
洞穴は快適で一応夜番も備えた。
最初は俺とダダンだ。
「そうか、そりゃ大変だな」
「そうなんだ、どうしてここにいるかもわからない」
嘘はついていない。
「ここから西に抜ければ俺たちが拠点にしているウェルザードという街がある。そこを拠点に自分探しをしてみたらどうだ?」
「どのみちこのままじゃまずいからそうするよ」
パチパチと火のはぜる音が辺りに響く。
今日のことを聞くと、
「ホープが怪我をしていてな、ゴブリンに気付くのが遅れたんだ。ユーヤが来てくれなかったらと思うとゾッとする」
「ホープはなんで?」
「はぐれオークと戦ってな」
「それでか」
「その後すぐだったから体制が立て直せなくてな」
ダダンは悔しそうに顔を顰める。
他にも色々話を聞いた、この服だと目立つそうなのでホープの替えを借りることになったり、ケイトに彼女は居ないのか問い詰められたりした。
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