昔の思い出
どこにいったんだろう。この隙に逃げたほうがいいかも。
でも、あの男が気になる、危ないと分かってても確認したい気持ちが抑えられない。
物音一つしないあの部屋のドアを少しだけ開けると、床で寝っ転がっていた男と目があってしまった。
「あれー駄目じゃん、勝手に覗いちゃ。悪い子だねー」
そう言って男はわたしの手を引き部屋の中に引きずり込んだ。部屋の中は、独特の臭いで充満している。まだ明るいというのにカーテンで締め切っているせいか暗い。
「すみません、お礼を言いたくて、何も見てないので、もう帰りたいです」
「ここに入った以上、簡単には帰せないかも」
壁に打ち付けられ無理やりキスをされそうになった。逃げようと抵抗したけど、さらに腕の力が強くなる男の目が怖い。
「震えてる怖いの?まさかこんなとこで再開するとは、みきちゃん。何で名前と年齢嘘ついちゃうの、悲しいじゃん」
何故か男にわたしの正体がバレている。
「な、なんで、本当の名前知ってるんですか?」
「20年くらい前だもんねーごめん、無理やりこんなことして。みきちゃん何も変わってなくてびっくりした。俺、君に告白したことあるんだけど、覚えてないか」
「全く覚えていません。すみません、、」
「全然いいよ、だって電話でしか話したことなかったもんね。写真で見て一目惚れしたのは俺だから。あの時が一番人生楽しかったわ。戻りてー、まあ、みきちゃんにはフラレちゃったけどね。」
思い出した。昔、幸太郎からわたしの事好きって言ってる二個上の先輩がいるから一回電話で話してみてって言われたことがあった。
「あ、もしかして、幸太郎の先輩のテッちゃんさんですか?」
頭をぐしゃぐしゃにし椅子にもたれかかる先輩は、ため息をついて小さく頷いた。
昔幸太郎からよく話を聞いていた。めちゃくちゃ喧嘩が強くて、こんな人から好かれるなんてお前は凄いって。確かにやんちゃだったけど悪い人ではないと思っていたから少し悲しかった。
「やっと思い出してくれた。この状況見てガッカリしたでしょ。みきちゃんは、今なにしてる人?」
「普通に働いて、普通に過ごしてます」
無職、独身、34歳、ついこの間まで死のうと思っていたけど、友達の依頼で探偵してます。なんて言えないので、適当に嘘をついた。
「いいなあ、俺なんてもう人生お先真っ暗でこの状態よ」
「大丈夫です。わたしもそんな感じですから」
「慰めてくれるの?優しいね、おじさん涙出そう」
「やめてください。歳そんな変わらないですから。あと服きてもらっていいですか」
「ああ、ごめんごめん」
椅子に掛かっていたシャツをサッと羽織る先輩の肌は凄く筋肉質で魅力的だった。
「ところで、今普通に歩けていたけど足大丈夫なの?」
「あ、痛いです」
「下のソファーで座ってなよ、俺ももう少ししたらそっちいくから」
足を挫いている設定など、忘れてしまうほど昔を思い出して懐かしくなった。あの時先輩と付き合っていたらこの運命は変わっていたんだろうかと思うと胸が苦しくなった。
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