山小屋の男


できればこれは嘘であってほしいと神様に願おうとしたけど、あの山小屋にあった白い高級外車が幸太郎の家のガレージに停まっていて、なんともこの家には似つかない異様な雰囲気で、わたしを現実へと引き戻した。まだ、何も始まったわけじゃない、幸太郎が関わっていない可能性もある。だけど、気がついたらわたしは写真を撮っていた。


帰ろう、明日は小屋に行く日だ。なんとしてでも証拠を集めて、阻止する。このことははっきり確信するまでかおりには黙っておこう。



「じゃあ、また夜に迎えに来るね。何かあったら電話して、飛んでくるから」


一睡も出来ないままかおりの電話に起こされ早朝から山に突撃するわたし達は、何者だろうか。たまたま見たアニメにハマってしまったと、目の下のクマの理由はなんとか誤魔化せた。

今日のミッションは、こないだこっそり隠しておいたカメラを回収しにいくこと。これも実家が金持ちなかおりが購入したものだ。この小さな窓から侵入するのも慣れたもんだ。

植木鉢の木の後ろに隠したカメラを無事回収。さて、誰もいないし少しソファーでくつろぐか。


ガタンッ


大きな物音がして飛び起きたら後ろには知らない男がものすごく驚いた表情をして立っていた。


「何してる」


そりゃそうだ。見ず知らずの女がソファーで寝ているんだもの。二階にいたのか、気が付かなかった。髪の毛はボサボサでさっきまで寝ていたようだ。


「すみません。登山してたのですが足を挫いてしまって、鍵が開いていたので勝手に休ませてもらってました、すぐ出ます」


冷静に淡々と目の一つも動かさないで出ようと支度を始めた。


「鍵、締め忘れなんて俺がしたことが。女ひとりで登山?」


「はい。道も分からなくて、困っていたので助かりました。ありがとうございます」


「少し、休んで行きなよ、なにもないけど、コーヒー飲む?」


出ようとしたわたしを引き止め、ヤカンに水を入れガスコンロに火を付ける男は、思っていたよりも優しくて正直戸惑ってしまう。年齢は40前半くらいだろうか、勝手にインスタントコーヒーだと思っていたけど、豆をガリガリやり始めたので、その仕草に釘付けになってしまった。


「年齢いくつ?名前は?」


「26歳、アイです」


咄嗟に好きなアニメのキャラ名にしてしまった。年齢だいぶ若くしたが、流石にバレるか。


「へぇーアイちゃんっていうんだ、こんな山奥で足挫いちゃうなんて最悪だね」


名前を呼ばれぞくっとしてしまった。


「お兄さんは、ここで暮らしているんですか」


「ここは俺の別荘で、たまに現実を忘れたいときに来る場所ってとこかな」


今のところ悪いやつには見えない。コーヒーのいい匂いがしてきた。男がわたしの前にカップを置き、横に座ってテレビを付けた。


「物騒な世の中になったよね、立てこもり事件。犯人捕まっちゃったけど、男の復讐らしいよ、罪だね〜恋愛は」


テーブルに置いてあったタバコに火をつけ、吸う?と聞いてきたので、首をブンブン横に振った。煙を吐きながらコーヒーを飲む男も、この事件には興味があったのか。最近あなた達のせいでテレビなんて見る余裕もないんだけどと言ってやりたかったけど。あの犯人捕まったんだ、良かった。

この男の独特な雰囲気と空間に気づいたら寝てしまっていて、起きた時には、隣に男の姿はなかった。
























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