探偵

かおりから連絡がこない。とりあえず、わたしは報酬分やるだけ。旦那を尾行する。以上。黒いファミリーカーが向かっている先は、予想外に山の方へと向かっている。わたしが思っていた、いわゆるそうゆうところではなかった。いよいよ尾行がバレるかもしれないくらいの細い山道に向かっていたので、わたしは少し時間をあけて後を追うことにした。かおりに電話するが出ない。


旦那さんと知恵なんだけど、山道に向かっててこのまま着いていったらバレそうだから、ちょっと一旦ガサやめて、時間差で奥まで進むわ。

覚えた探偵用語を使ってみたくて、ここだというところで使ってみた。使いどころ合っているのか分からないけど。


了解、ありがとう、気をつけてと返事がきた。

40分近く細い山道を進むと一軒の山小屋に旦那の車が停まっていた。一回通り過ぎて、車が停められそうなところを探し、歩いて山小屋を確認しに行くことにした。

心臓が喉の辺りまで飛び上がりそうになるのを必死に抑えて、いつでも撮れる準備はオッケー、大丈夫。近くの茂みから監視することにした。まさかこんなところに来るなんて思ってもなかった。


この辺は、ヌルヌルとしていて滑ると危ないかも。ふと横を見ると大きな沼があって、ここに落ちたら死ぬなといつもとは違う恐れを感じた。森だからだろうか、昼間なのに異様な空気が漂っていて、くるしい。中から人が出てくる気配は今のところない。こんな山奥で、一体何をしようとしているのか。


2時間くらい経っただろうか、時計を見ると実際には1時間しか経っていなくて、時間の遅さにゾッとする。そろそろ尿意がきつい。誰もみていないし、その辺でしてしまおう。タイミング悪く、何か話し声が聞こえてくる。こんな時に。急いで用を足して、パンツを履こうとしたら危うく足を滑らして、沼に片足を突っ込みなんともみっともない格好をしてしまった。今の驚いた顔を遺影にでもしたらとんでもなく面白いんじゃないだろうか。ダメだ。集中しよう。


女の笑い声はSNSオバケだろうか。車の扉が閉まる音がして、誰かがまた小屋に入って行った感じだ。あまり詳しくないわたしでも分かる白い高級外車で、男か女かは分からなかった。

昼間の土曜日に、いい年した大人がこんなところで何やってんだか。休日くらい子供と一緒にいてやれよ。だんだんイライラしてきて、近くまで行ってこっそり窓から覗こうと思ったら、煙突がある事に気がついた。運良く壁に梯子も付いていたので、足跡を立てないように上り、いよいよ不法侵入。二階建てという事に気づいた。煙突から下に降りれないか確認したが、ここから降りれそうにない。屋根の板を剥がすかとか色々考えたけど、結局いい方法が思いつかなくて下に降りた。


窓にはもちろんカーテンが掛かっていて、中の様子を伺うことはできそうにない。どうしたもんかと考えていると、中から誰か出てくる気配がしたので、今度は入り口が見える茂みに隠れた。SNSオバケだけが出てきて、白い高級外車に乗り込んでどこかにでかける様子だ。誰かと電話しているが、なにを話しているのかは分からなかった。大量に虫にさされたのでとりあえず一旦車に戻ろう。こんな泥まみれになるとは思っても見なかったので着替えを用意していない。レンタカーを汚すまいとズボンと靴を脱いで車に乗った。14時半。ここへ来て3時間は経とうとしていた。


「もしもし、かおり?あんたの旦那ちょっと想像のつかないところにいるよ。」


「え、マジ。どこにいったの?」


「〇〇市の山奥の小屋、なんか聞き覚えある?」


「いや、ないね。そもそも〇〇市に行ったこともない」


ここまでの情報を事細かく伝える。もちろん外でトイレをしたことも。


「ここまでしてくれてありがとう、危ないから一旦戻ってまた今度作戦練り直さない?」


ゲッまたやるのと心底旦那を恨んだけど、確かにこの山奥で見張るには軽装備すぎるので、また後日ということになった。

その日の夜ご飯は報酬の一万円で久しぶりに、肉だく牛丼ポテトサラダセットにした。もちろん温泉玉子付きで。食べながら、ふとあの改札口でお金を渡したおばあちゃんの事を思い出してしまった。




 











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