同窓会
こんなところに本屋があったのか、全く興味はないけど時間を潰す必要がある。16時。あそこにいるよりかはマシだ。入ったら買わないといけないだろうか。躊躇する。中を覗くと人らしき人はいない。えい、思い切って行ってやれ、大丈夫、電子マネーの残高は確か1200円。いや違う、さっき使ったから、940円か。ギリ買える。
奥の方からいらっしゃいませ。と女性の声が聞こえた。やってる。特に欲しい本がある訳でもないが、探してます風に、持って10分。そもそもこんな古本屋で電子マネーなんて使えるのだろうか。やっぱりすぐ出よう。
「何かお探し?」
「あ、えーと、江戸川乱歩の本を探してまして」
確かそんな名前の作家がいた気がする。そしたら思ったよりも食いついてきてお姉ちゃん渋いね〜とこちらに出てきた。ここだよ、ズラリと並んだコーナーに案内された。ありがとうございます。と頭を下げ、眼鏡をかけて顎に手を乗せている初めて見るおじさんの表紙、これが江戸川乱歩かと適当に取った本をおばさんに渡し、スマホを見せた。
「ごめんね、うちは現金しか使えないの」
16時30分。結局何も買わずに出た。
さっさと行って帰ろう。すでに数人席に座っていた。話したことのない子たちばっかだったので、とりあえず離れて、一番奥の角の席に座ってみた。ここが今日のわたしの位置。動くことはない。早く来たものが得られる一番いい席ではないだろうか。
しかし料理が真ん中に集められるから、真ん中の方がいいだろうか。二つ横にズレてみたけど、やっぱり違和感を感じたので、元の席に戻った。今から来る子たちはどこに座るのか見ものだ。ここから見学させてもらおう。
チラホラ集まり始めて、気づいたらわたしの周りにはSNSオバケ、かおり、子供たち、幹事の幸太郎、幸太郎の友達シンタロウ、が座っていた。ここまでの記憶がもう何もない。あと一つ席が空いていて、そこには鈴木先生が座るらしい。まだ来ていない。始まってないが、もう早く終わって欲しい。限界。
「鈴木先生遅れるみたいなので始めたいと思います。15年ぶりなのに、こんなに集ってくれてありがとうございます、では…」
顔を真っ赤にさせて話す幸太郎、結婚指輪してる。お前も妻子持ちか。
乾杯の前に、誰よりも先に一口飲んでしまったレモンサワーを、あたかも一口目です、って顔をして乾杯した。
30分遅れてやってきた鈴木先生は、あの頃よりも、ぐっと痩せていてびっくりした。全く話した事のないシンタロウが横で、みきちゃんも痩せたね〜腕もう骨じゃん食いなよって言ってフライドポテトを渡してきたけど、それわたしが頼んだポテト。話は何一つ入ってこなかったけど、子供に取られていたポテトがわたしの前に来て、シンタロウナイスじゃんと思って一本取ったらまた子供に持っていかれた。ムカついたから、レモンサワーを一気飲みして目の前にあったもう殆ど残ってないサラダの残骸を、芋虫みたいにむしゃむしゃ食ってやった。
「西川、元気にしとったんか」
SNSオバケの自慢話にイライラしていると、鈴木先生に話しかけられた。あぁ、と突然声をかけられたから適当に返事をしてしまって気まずい雰囲気にしてしまったかもしれない。
「なら良かった、お前は昔から何を考えてるか分からなかったからずっと心配していた」
大丈夫、気まずくなってない。先生が何故わたしみたいな奴を、今だに心配してくれているのか聞きたかったけど、シンタロウが海外に行く話をし始めて、会話が途切れた。まあいい、今日は飲み放題だから次は梅酒ソーダ割りでも飲んでやろう。タダ酒ほど美味いものはない。あとさっき食べられなかったフライドポテトもこっそりもう一つ頼んでおこう。
「では、鈴木先生に渡したいものがあります!」
と突然幸太郎からサプライズ的な発表があってわたしと他数人は初めて聞きました顔をしたけど、そんなそぶりは見せずとりあえず拍手でもしてみた。奥から還暦おめでとうと書かれたケーキと花束が出てきて、鈴木先生は涙を浮かべていた。このケーキと花束代は、後から請求されるのだろうかとヒヤヒヤしたけど、ここは幸太郎が払ってくれたみたいでホッとした。
子供達がぐずり始めたので、みんな解散する流れでわたしも一緒に立ち上がった。
帰り道、あの古本屋で見つけた江戸川乱歩の本の題名を忘れてしまって、もう一度本屋に行ってみたけど、もちろん閉まってて、開いてても入る勇気は無いし現金も持ってないので、コンビニで買った唐揚げ棒と缶チューハイを片手に、最後に頼んだフライドポテトは、別の席に運ばれてしまってみんなお腹いっぱいで、嫌われ者になってしまっていたけど、帰りに見たら全部なくなっていて、結局食べるんかいと、ムカついた。
お酒のお陰で凄く気持ちが良かったから、今なのかもしれないと思ったけど、なんだかモヤモヤした気持ちのまま上手に成仏出来ない気がして、線路に飛び込むのはやめた。それと同時に、シーンとしたホームの静かさと暗闇がわたしを包み物凄い恐怖が迫った。今までの想い出が走馬灯のように流れてきて、電車から降りてきた人が引くぐらい泣いていた気もするけど、電車に乗ってからの記憶はない。気づいたら自分の玄関の前にいた。
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