第2話いざ、旅立つの日にゃ
自室で旅立ちの身支度をしていると、突然扉を激しくノックする金属音が部屋中に響き渡る。
「ふんにゃにゃ~…来たか?」
扉の向こうから騒がしい声が聞こえ、直ぐに誰が来たのか察した。我が2人の友だ…。
急いで扉のロックキーの電子パネルに肉球を押し込み解除した。
「入っていいにゃ」
「「スコット!!」」
「フギニャア!?」
扉が自動で開閉された瞬間、我が友2人の叫び声がを至近距離で鼓膜に襲いかかり、思わず全身の毛が逆立った。
1人は烏族の獣人。もう1人は狗族の獣人だ。
ちなみに「スコット」とは私の愛称である。
「旅立つってどういうことじゃけえ!?」
烏族のイバ・ロナウド。羽毛の上からでもわかるガタイの良い屈強な体格で、義理に厚く筋を通す訛り口調の漢。鋭い眼つきをサングラスで際立たせ、頭髪を鶏冠に引っかけてをリーゼント風にまとめているのが特徴。
この国で魔法という神秘の技術を扱うことに長けた人物の1人で、その実力を買われて王宮の魔導隊長を務めている。また、剣術や格闘、素早さも総合的に優れている。
「修行に行くとはどういうことか!?」
狗族のコマムラ・ウッディー。太い毛並みと巨体を持ち、義理人情と忠義に厚く、編み笠と被り籠手を着けており、ロナウドとの付き合いは長い。
その巨体から繰り出されるパワフルかる柔軟な戦闘力は非常に高く、それを買われて王宮の騎士隊長を任されている。特に盾を敢えて武器として使う戦闘術は、意外な活躍を見せている。
「フンニャー…急な出発になってしまってすまない、2人とも。だが、今の私には鍛錬の時が必要なんだ」
「しかしのうスコット、聖剣の修行ってどげなことじゃ!?」
「狭間の世界にある惑星なぞ、聞いたことがないぞ、本当に大丈夫なのかスコット!?」
未知の世界へ修行に向かう友に対し、心配と不安から詰め寄るロナウドとウッディー。ちなみに彼らの方が巨体で、スコティッシュとは結構な身長差がある。
「まあ落ち着け2人共、聞いてくれよ」
彼らの肩を軽く叩いて宥め、戸棚に近づき戸を開き、中からビーストキングダム産シーソルトクッキーと、同じくビーストキングダム産紅茶のパックを取り出す。こいつは美味いぞ。
「フンニャ…先ずは紅茶とクッキーで一息つこう。ロナウド、ウッディー」
クッキーと紅茶パックを掲げて笑いかけて提案。
「グワ…そうじゃの」
「アッヒョ…すんごい良い提案」
3人でビーストキングダム職人特製のアンティークテーブルとチェアを囲み、ポットやカップに皿を並べてお話しティータイムを始める。
「正直ワシも心底たまげたんじゃけぇ…のおウッディー?」
「うむ?まさかいきなり未知の惑星に旅立つとは…なあロナウド魔導隊長?」
「わざわざお互い役職で呼び合うニャすんごい嫌味を感じる」
3人とも紅茶を飲みつつ、クッキーを齧る。
「フンニャ…私も考えなしに今回のことを決めたわけじゃないぞ。イアン=シド様は不思議な人だが、本物だ。あの聖剣…聖鍵とも言うらしいが、シュベルトシュルッセルの使い手である彼の下で色々学べば、強さに自信が持てる…そう思ったんだ」
あの時、イアン=シドを介して触れたシュベルトシュルッセルの感触と瞬間を思い出すかのように、自分の掌を開閉しながら見つめる。
たったあれだけの簡単なことで、聖剣を手にする資格を得たらしい。未だ実感はし辛いが、資格を得たということは、聖剣を手にしても許されるという意味だ。しかし、肝心の聖剣を何処でどういう風に手に入れるのかは聞いていない。
「聖剣、鍵か…噂でちょいと聞いただけじゃけえ、まさか本当に持っとる方が現れるとはのう…。しかもこの秘境のビーストキングダムにじゃ。おまけに王とも謁見済みとはのう…。他ん異星の方っちゅうんは、壁をあっさりと超えちまうもんじゃな」
確かにこのビーストキングダムでも、シュベルトシュルッセルとその使い手については、人々の間で語られる噂話程度の認識だった。私自身も、両親や王族達から実際に存在するとは聞いてはいたが。ましてや外宇宙のことは、いくら認知しているとはいえ来訪してくるとは、今までの歴史上滅多になかった。
「聞いた噂では、邪なる力や存在、空気までをも浄化し、病は回復し、あらゆる扉や道を切り開く強大な力を秘めているらしい…実際にスコットが持つことになるのは想像し辛いが」
「んまあ確かにニャ」
「フンニャ…シュベルトシュルッセル持つ者は光の、世界の守護者となりえるそうだ」
「ほうか、光と世界とは、デカく出たのう。荷が重すぎんかスコット?」
「いずれ王としてこのビーストキングダムを守らねばならぬのだから、光でも世界でも望むところだ」
「そりゃあ違いねえ」
そうして、紅茶とクッキーを交えて他愛のない会話を続けていた。
「にしても、昔はいろいろあったのお…」
「なんだ? どうしたのだいきなり?」
「ああまあ、3人でつるんでたフンニャあ…」
何気なく、それぞれ昔のことを思い出し始める。
3人で三銃士紛いなことをやっていた時期を思い返し、記憶を手繰り寄せる。
「そういえば三銃士をやってたニャあ…」
「おおう銃をつこうとらんんおに三銃士懐かしいのう…」
「ふむ、あの時期のことか、三銃士、確かにな…」
どういう理由で三銃士紛いをやっていたかといえば、なんということはない。子悪党が出てきたので、まだ若かったスコティッシュらが若者特有のノリで、やっつけてやろうと勢いづいてやっただけである。
その当時でも強かったので、子悪党率いる集団を一捻りして警邏隊に突き出したが、当然無茶無謀なことだったので怒られたのは彼らにとっていい思い出である。
あの時の武器は、自分はレイピア、ロナウドは杖、ウッディーは円形状の盾を所持していた。レイピアで飛び掛かって素早く突いては切りかかり、ロナウドが杖からの魔法で中距離から遠距離で攻撃して、近づかれた場合は仕込み刀で対応。ウッディーがその巨体で盾を振り回して打撃を食らわせ一網打尽。これが3人の戦法だった。ちなみに銃は使わないというかこの国には存在しない。鉄砲玉など時代遅れの古きものだからだ。国の鉱石であるナゴニャニウムで作られた槍や剣、盾の方が最先端の武器なのが常識だ。
そして、何かある度に、3人とも武器を掲げて決まり文句を言っていた。
「一人はみんニャのために、みんニャは一人のために…」
手で剣を掲げるポーズをした。
「ぐわぁ懐かしいのぉ…しょっちゅう言ってたんじゃけえ」
それを見て、ロナウドも杖を掲げる仕草をして笑い、スコティッシュと視線をウッディーに向ける。気付いたウッディーも当時を懐かしむように、盾を掲げるように腕を上げる。
「ふむ。こうして3人でそれぞれの武器を掲げて交差させたなぁ…」
そうしてあの時のようなポーズを再現するが…
「フンギニャ!?」
うっかりスコティッシュの肉球に触れ、その途端彼は悶絶するような叫びを上げて毛が逆立つ。
「すまんの。そんで柔らけえのう」
「すまぬ。そして柔らかいな」
「フンニャギアあの結構肉球触られると痛いんだよな馬鹿野郎この野郎共おい」
「「あ出た十八番」」
呆けた顔で軽く謝る2人に対し、顔は笑って態度は少し怒り気味で返す。ちなみにこれは私の特技「笑いながら怒る」であり、かなり好評な一発芸である。
「おう!? 少し一息入れ過ぎとじゃけえ」
「ふむ。楽しい時は直ぐ過ぎるか…」
あくまで落ち着かせるために一息過ごすつもりが、それなりに時間が経過していた。
荷物をまとめて自室から出ると、改めて2人に向き合う。
「ありがとう、ロナウド、ウッディー。必ず力を付けて戻ってくる。もっと自信を持って誇らしい自分になってな。だから、家族と皆のことは頼んだ、ロナウド魔導隊長、ウッディー騎士隊長」
2人に柔らかな笑顔を向ける。その瞳に確かな決意を秘めて。そして、自分が不在の間は、大切な人々と国のことを頼むという、王子としての意志も伝える。
「「イエス、ユア、マジェスティ!!」」
友人達の頼もしき返事を見届けた。
羽付き帽子を被り、マントを羽織り、ベルトを付けて長靴を履いて、バックに纏めた荷物を手に取り、自室から出て、家族と王室関係者、部族の長達、そしてイアン=シドが待つ場へと急いだ。
【ービーストキングダムニャカンダ飛行離陸広場ー】
この場所では、外の様子を偵察するために、飛空艇の離陸が行われている。
ビーストキングダムは「ナゴニャニウム」の原産地で、確かな硬度と衝撃吸収力に優れたこの貴重な鉱石で作られた飛空艇は、外の脅威に対して破壊されることはまずない。
そして、王子の修行への旅立ちを見送るため、王宮騎士団、魔導騎士団、側近武装隊ナーゴ・ミラージュ。ビーストキングダムの王室関係者達が集い、無論その中にはスコティッシュの家族、両親と妹もいる。
「スコット…達者でな。我が愛する息子よ」
「父さん。必ず力を付けて戻るよ」
父であり、この国の王であるガオガエ・フォールドが、優しき眼差しで息子であるスコティッシュに声をかけながら抱きしめる。
「スコット、どうかこの旅が貴方にとって実りあるものあることを祈ります…」
「うん。ありがとう、母さん」
女王であり母であるレパルダ・フォールドが、さらに重ねてスコティッシュを抱きとめる。
「兄さん」
「なんだエネ?」
スコティッシュの妹、つまり王女であるエネ・フォールドが無邪気に近づく。
「向こうでへましないでよ? 困ったことがあっても。遠くじゃ私の発明品届けられないからね?」
「言ってろこのにゃろう」
エネも両親に続き、スコティッシュに抱き着く。つかの間の瞬間、家族との触れ合い。
「陛下、どうかご武運を…」
「ああ。頼んだぞペルシ隊長」
王室の側近護衛部隊ナーゴ・ミラージュ隊長、ペルシの言葉に、スコティッシュは笑顔で答える。
しかし、スコティッシュのとってある意味特別な存在である人物がいないことに、いま初めて気付き、思わず周りを見渡す。この場にいる全員がそのように勘付き、若干の苦笑いを浮かべる。
「ペルシ?」
「なんです陛下?」
明らかにほんの少しだけ動揺している主に対し、ペルシはおどけ気味に答える。
「ラニュマは来てないのか?」
「もう元カノじゃないですか…」
「フンニャ…そう言われるとニャにも言えん…」
ペルシは容赦なく呆れ気味に眉を顰めて返すと、スコティッシュは僅かに項垂れる。ペルシも含めて周りは内心笑いそうになっている。
ラニュマとは、スコティッシュの元カノの猫獣人。勇ましき女性戦士で、かつてナーゴ・ミラージュにも在籍していた猛者だが、スコティッシュが王子として正式に即位するゴタゴタで気持ちが合わずに別れた。今は他国へ潜入捜査員として出向いているが、知らせを受ければこんな日くらい来てくれるかも…と。スコティッシュは未練ありげに思っていたのだ。
「どちらも未練おありなのは結構ですが、今は忘れて修行に励んでください陛下」
「はいすんません…」
「いや急に素に戻らないでください!!」
そうだよね、自分が悪いもんね。そう自身に言い聞かせながら憂いを帯びた笑みを浮かべつつイアン=シドの側へと向かう。一連のやり取りを見ていたイアン=シドは聞きづらそうに…。
「なんじゃ痴情のもつれがあったのか王子よ?」
「フンニャそんな感じです」
「ああお主そっちが素なのか」
若干落ち込んでる弟子の様子に困惑しつつ、取り合えず肩を叩いて慰めた後、咳払いをして右腕を飛行場の正面へと翳す。その手にはシュベルトシュルッセルが現れる。
「開け、異界へのゲートよ」
シュベルトシュルッセルから一線の光が放たれ、何もない空間が切り裂くように開かれて、やがて光の粒子を出しながら輪っかとなり、巨大な空間の穴が生まれた。その穴の向こうには、形容しがたい異空間が広がっていた。
「この道を辿り、狭間の世界、惑星へと旅立つのだ」
この向こうが、未知の世界。外宇宙への旅立ち。
2人は異界の道、穴の中へ進む。
「「スコット!!」」
歩き出したスコティッシュの背後から自分の名前を呼ばれ、振りかえる。
「「ビーストキングダムフォーエバー」」
胸の前で、両腕を交差する挨拶のポーズ。これから何かに挑む際にするこの国お決まりの伝統仕草。2人はスコティッシュの無事を願った。
「ビーストキングダムフォーエバー」
スコティッシュも2人の友人に同じポーズで返事。その表情は、とても晴れやかだ。
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