スコティッシュ・フォールドの冒険譚

大福介山

第1話猫、魔法使いと出会う

私は猫である。




 種族は猫族、二足方歩行型。毛の色は灰色。つぶらな瞳は紫色。身長体格は30㎝のぬいぐるみ体型。随分とまあ小柄ときたもんだ。ちなみに白魔法が使えるのだが、力の発信源は耳にある。この耳には目のような模様があり、我ら一族の特徴だな。この耳は普段は力のコントロールのため折りたたんで塞いでいる。丸まった耳が可愛いと周りからは評判だ。照れくさいものだな。




 おっと、申し遅れたが、私の名はスコティッシュフォールド。略称はスコット。普段はビースト・ザ・キングダムと呼ばれる秘境の国を治めてる王だ。皆からは王様と言われているからそう呼んでくれ。




 この国を治める王として日夜精進している。帝王学、経済学、武術、処世術、礼儀作法。文化交流、政治力と、挙げたらきりがないな。


 そしてビーストキングダムの住人は、私と同じように獣と人の混ざり合った姿をしているぞ。




 多種多様な獣の容姿と能力。それでいて、この惑星に存在するどの国や種族よりも優れたテクノロジーと文化を持っている。そして、宇宙の大海原に存在する幾多の惑星・異世界のことも認知している。


 だが、認知しているだけで、実際に外宇宙の存在と交流したことはないのだ。他の国家とようやく少しずつ交流と外交を始めたばかりの鎖国状態だったので、なおさらなんだなこれが。


 じゃあ何故、外宇宙とそこに住まう人々のことを認知しているかといえば、この国で採取できるナゴニャニウムが、その外宇宙から隕石として落下したのが歴史の始まりだからだ。




 ちなみに、私は今、山岳地帯で夕日を眺めている。ニャカンダの夕日は美しい。それはビーストキングダムの皆が知ってる。山と山の間からその美しき橙色の光を輝かせる様は、見る者の心を捕らえて離さず、感動のあまり足を止め、時を割いてしまう。




「若き王子よ…お主は何を目指しておる?」




 で、私の横で夕日を眺めている、青いローブを着た厳つい顔つきをした人間の魔法使いさん。


 先程ふらりと現れ、こうして一緒に黄昏れていたわけだが、妙なことを聞くなぁ?




「フンニャ…ニャフニャフ-ニャア…フニャーゴロナーゴニャフニャフ…失礼イアン=シド様、翻訳機をオフにしていた…!」


「うむ、色々と雰囲気が台無しだな」




 ふふ、私としたことが…無限に広がる宇宙では、当然そこに住まう人々の言語は異なる故、翻訳機は必須中の必須。無論、この私とて例外ではないのだ。翻訳機を使わず喋ると、猫が可愛く鳴くような声にしか聞こえないのが難点だが、まあ相手を油断させる効果もあるので美点でもあるがね。




 喉を鳴らして改めて喋る。ちなみに私はこの外見に反してド・低音ボイスだ。ニャにか文句でもあるかね? ん?




「この国を…守れる守護者でありたい…そして王としての責務を果たしたいんですニャァ…」




「なるほどそうか…」




「はいそうニャんです」




「だから色々台無しだ」




「父はもう守護者として戦える年齢ではない。だから、私には先に守護者の役割を譲りました。いわば中間期と言いますか…。儀式のミントを飲み、守護者の力を得た。戦いの訓練はしましたが…まだ実戦と呼べるものではありません…」




「難しい時期だな、いずれお主は王としての責務も引き継がねばならぬ。今はまだ学ばねばならぬ時と…ここは秘境の地ゆえ、本来なら国外のはおろかワシのような惑星外の者すら訪れんことは承知しておる。だが、かすかにお主の強き氣、力の片鱗を感じ取ってな…秘密裏に王へ謁見し、許可を得てこうしてひっそりと話しをさせてもらっておるのだ王子よ」




「フニャんですって? ああ…そうだったのですね…通りでおかしいと思った」




 何気にこうして心の内を話していたが、どうして、明らかに外部の者であるこの老人がビーストキングダムにいるのか疑問には思っていたが、敢えて追求せずにいた。否、彼の神秘的かつ威厳のある雰囲気に、自然と受け入れてしまっていたのだ。




「ところで私の…氣?、強い力を感じとったとは、どういうことです?」




「ん?おやまだわからぬか。ふむ。またあれだ。力を感じ取ることに対して釈然とせぬかもしれぬが、お主もいずれわかる」




「フンニャ…そう、なのですか…?」




 強い氣や力の片鱗を感じ取るとはどういうことであろうか? 言葉の意味が理解できず、怪訝な表情をイアン=シドに向ける。


 父が守護者を引退して数日後、丸形のミントを儀式で飲むことで超人的力を得ることはできたが、この老人はそれを感じ取れたとでも言いたいのだろうか? 彼はそれに応えるように微笑みを浮かべて口を開く


 


「ふむ。お主には聖剣を持つに相応しい素質がある。資格を与えてもよいかもしれぬな」




「せい、け、にゃ、ニャンですと? 資質? 資格…? 何の話です?」




「お主の心に問おう。この国だけではなく、世界の、光の守護者として聖剣を携え、秩序と平和を守る勇気はあるか…?」




 そう言うと、徐に右腕を前に翳す。開かれた掌。急に光の粒が出現し始めたかと思うと、それは大きな光の粒子となって輝き、彼の右手には一つの剣…白と青の剣が握られていた。




 その剣は不思議な見た目をしていた。まるで美術品のような、装飾品のような出で立ち。しかし、一目見て分かったのは、剣からは確かな力が流れ出ており、それを感じ取れた。




「なんです? その剣は…?」




「シュベルトシュルッセル…」




 シュベルトシュルッセル。


 それがこの神秘の武器の名前。




「時にこの剣は鍵の役割も持つ。聖鍵とも呼ぶ神秘の武器だ。そしてこの剣を使える者の数だけ、シュベルトシュルッセルは存在するのだ…」




 屈みながらシュベルトシュルッセルをの前に差し出す。




「王には話しは通っている。息子である君には大いなる試練と力を養う修行期間が必要だと、な」




 思わず息を飲みでしまう。思わず訪ねてしまう。




「ニャ…ニャニが始まるんです…?」




「ハッハッハッハッ…何も心配することはない。継承の儀式だ」




 まるで抑揚と感情のこもっていない棒読みのような枯れた笑い声でイアン=シドは応えた。




「触れれば、ワシを通じて、お主はシュベルトシュルッセルを使う資格をえる」




 自分を真っ直ぐ見据える光の守護者の問いに、スコティッシュは深く息を吸い、静かに目を開いて覚悟を決めた。




「お受けします。イアン=シド様」




 差し出された聖剣に、ゆっくりと触れた。




 その刹那。まるで彼と私の心が繋がり、聖剣の力の本流が巡り始めたように感じられた。


 にゃ、ニャンだこれは!?




「これで、お主はシュベルトシュルッセルを使う資格を得た…」

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