第10話 観客
各々好きな食事をとってくると、窓際のテーブルをみんなで囲む形になった。
他にも昼食と食べている者はいたが、お昼のピーク時間は過ぎていたので5人でも同じテーブルに座ることは容易だった。
「それにしてもククル、昨日はすごかったなあ。」
食べ始めると四天王の一人であるガイアが、昨日の戦闘について話を始めた。
ガイアは筋肉ムキムキの大男で、性格も見た目の通り大胆だ。昔から知っているがたいていのことは深く考えず行動する。よく言えば大胆、悪く言えば適当といった感じだ。
「確かに! ククルがあんなに強いなんて思ってもみなかったよ。戦い始める前は僕がククルを助けに入った方がいいかなとか思ってたんだけど、全然いらなかったね!」
そこにミミが同意し、参加する。
ミミは四天王の中では一番若く、他の四天王よりも俺と年が近い。そのこともあってか、偶然会っても気軽に話せるので、四天王というよりも友達といった感覚に近い。まあ、友達といっても上辺だけではあるが。
「そうねぇ。それに昨日は全力を出していなかったようだし、まだ何か隠していたりして。」
うっ、やはりこの女は油断ならないな。
そう言ったのはサラという女で、おっとりした性格で普段は動きが遅すぎることから周りの奴に怒られているが、時々何かを見透かしたような発言をする。しかもそれがたいてい当たっているのだから恐ろしい。
「やだなぁサラさん、有利に戦いを進めるために余裕のふりしてただけですよ。実際ぎりぎりでしたって。」
「・・ふーん、まあ、そういうことにしておくわ。」
サラは納得していない様子でそう言ったが、もしかしたら俺が能力持ちなのも、昨日が全力じゃなかったのも気づいているのかもしれない。
そろそろ上書きが必要かもなと思ったその時、レイが助け舟を出してくれた。
「こらこらサラ、あんまりククルをからかってはいけませんよ。ククルは能力が使えないのですから、昨日のような戦いになるのは当然ですよ。一年前のことを忘れたのですか?」
「一年前・・ああ、もうあれから一年たつのね」
ナイスだレイ。
一年前のことをこのタイミングで出すのは助かる。
「一年前? 何かあったの?」
「我も知らないのだが。」
「そうか、ガイアとミミは知らなかったな。ククル、この二人に話してもいいかい?」
「うん、いいよ」
一年前、俺がまだ四天王の中ではレイとしか仲良くなかった頃の話だ。
その頃も俺は今と変わらず訓練に励んでいた。しかしその日はいつもと違った。
レイに後をつけられていたのだ。
部屋を出てすぐにレイとばったり会い、その後別れたはずなのになぜかレイは俺を尾行し始めた。
そして備考の途中でサラが合流した。
二人は後に「たまたま通りかかっただけ」といっていたが、俺は二人の尾行に気づいていたし、
「何してるのよレイ」
「ククルの尾行だよ、あの子が普段何をしてるのか気になってね」
「あの子は確か魔王様の・・・・面白そうね私も行くわ」
そんな会話がしっかりと聞こえていた。
誰かに見られていては、実力がばれてしまうと恐れた俺は、今日の訓練は延期にしようかと思っていたが、訓練以外にすることもないので特に予定は変更しなかった。
まあ実践でもしなければ、不審に思われないだろう。
そう思っていたが、予想外のことが起きた。
熊型の大きな魔物に襲われたのだ。それもかなりの数の。
魔王軍でそれなりに戦えるものでも一体にてこずるくらいには強い魔物だ。ましてや複数、ぱっと見じゃ数を把握できないくらいだ。
俺は過去最大級にピンチだった。
もちろん本気を出せばこんな熊型の魔物は俺の敵じゃないし、傷一つ負わずとも倒せるだろう。
でも今回は観客がいる。本気を出すわけにはいかない。
だが本気を出さなければ、もっと言えば一般的な年相応の力で戦えば、間違いなく死ぬ。
結果から言えば俺は逃げた。
必死に逃げた。あくまで必死に見えるように。
「ククルを助けよう、サラ手を貸してくれ。」
「ちょっと待って、もう少し様子を見ましょう。」
「何を言ってるんだ。早く助けないと。」
「わかってるわ。でももう少しだけ待って。」
おいおいそんなこと言ってないで早く助けてくれよ。このままじゃほんとに死んじまう。
もう少しピンチになってみるか。
俺は疲れた風を装って走るスピードを落とした。
我ながら名演技だったと思う。追いつかれて今にも攻撃を食らいそうなとき、レイが助けてくれたのだから。
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