第8話 お礼

ライアを気絶させたところで、執事と四天王の戦闘を見てみると、そっちもそろそろ終わりそうであった。

まあ、四対一なのだからここまでもった執事を褒めるべきなのだろう。

しかしなぜだ。執事の顔からはいくらか余裕が見える。


俺は嫌な予感がしたが、それは座って戦闘を見ていた魔王様も同じだったようだ。


「すぐに執事を仕留めよ!」


そういって四天王を急かしたところで、執事が不敵に笑った。


「もう遅い。」


その瞬間、空気が変わった。


それは一瞬のことだった。

執事が光に包まれたかと思うと次の瞬間、執事の風貌は大きく変化していた。

頭からは角が生え、体は筋肉で二回りも大きくなり、腕も四本になっていた。

その体の変化に一瞬全員の動きが止まった。そしてその瞬間に執事はライアを回収し窓を突き破って逃げていった。









その後騒ぎを聞き駆け付けた魔王軍の魔族たちが集まり、魔王様から説明を受けることになった。

皆を安心させるために四天王も奔走していたが、何の地位も権力もない俺は暇になってしまった。


「さて、行くか・・」


たどり着いた場所は魔王城からかなり離れた森の中だ。そこは気候のせいなのかわからないが、動物はおろか虫もいないような場所だった。


「やっと来たか・・」


俺を待っていたのは執事だった。ライアはまだ眠っていて近くの期にもたれかかっている。


「待たせたね。」


「まさかライアの服にメッセージをしのばせるとは、私が逃げ出すことをわかっていたのか?」


「完全にわかっていたわけじゃないよ。あなたが戦闘中追い込まれているのに余裕の表情をしていたから気になってね、もしかしたら奥の手でもあるのかと思っただけだよ。」


「そうかやはりお前は危険だ。ここで殺しておくべきだな。」


「やはり・・ね、お前のバックにいるやつは誰だ?」


「それは言えんな。言ったところでお前はここで死ぬのだから関係ないだろう?」


そう言った瞬間、執事は俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。魔王城で戦っているときはなかった刀を持っている。逃げる途中で調達したのだろう。

俺は不意を突かれたもののギリギリのところでかわし、距離をとった。


「悪いけどここで死ぬつもりはないよ。ねえ、俺を仲間に入れてよ。俺も魔王軍をつぶしたいんだ。」


「今更そんなこと信じれるわけないだろ。」


結構本気なんだけどな。

今の執事なら四天王の二人位は倒してくれそうだし。こいつのバックにいるやつを敵に回すのはリスキーな気がするんだよな。下手したら敵対組織が複数になる可能性もあるわけだし、それは避けたい。


「それならまあいいや、じゃあ俺のトレーニング相手になってよ」


「トレーニング相手だと?まさかお前、生きて帰れると思っているのか?」


「当たり前だろ、お前に負けるほど俺は弱くないぞ」


「ほざくなよ、能力を持たない雑魚がー!」


叫びながら突進してきたが今回は上体がさらに低くなっている。俺がそれをかわすと執事はその突進の勢いのまま曲がり、俺の周りを高速で移動し始めた。


「はっはー!360度全方位からの攻撃に対応できるかな!」


そう言いながら執事は様々な方向から、俺向かって刀を振ってきた。


ライアの突進と比べるとはるかに速い。

しかしそれも当たらない。


「なぜだ!なぜ当たらない!なぜおまえはかわせるんだ!」


「なぜて言われてもな・・お前、能力を過信しすぎじゃないか?」


「何?」


「大方お前の能力は身体能力の強化といったところだろ。その姿もその能力の派生で変化したのだろう?」


「まあ見ればわかるか、そうだ、その通りだ。」


「別に能力が悪いと言っているわけじゃない。その能力も使い方によっては格上の相手を倒せる能力だろう。だがな、使い方が悪いんだよ。」


「黙れ、能力を持たないお前ごときが能力を語るな!」


そう言って高速で移動している執事がさらに攻撃スピードを上げてくる。

しかし俺には届かない。


「いいか、身体能力の向上は能力に頼らずとも可能だ。現に俺の身体能力はお前のスピードと遜色ない。だからかわせる。・・がせっかくだ。いいものを見せてやろう。」


そういって俺は動きを止めた。執事の攻撃を誘うように。


「くたばれーー!」


執事はここぞとばかりに俺に刃を振り下ろしてきたが次の瞬間、執事は吹き飛ばされて気に打ち付けられていた。


「!?・・がはっ、何が起きた!?どうなっているなぜ刀が真っ二つに折れているんだ!?」


「トレーニングに付き合ってくれたお礼だよ。」


立てないほどのダメージを負い混乱している執事に近づき、そう言って俺は執事の頭を踏みつぶした。


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