第7話 手抜き
「何を言ってるんですか、俺と親父が犯人なわけないじゃないですか。」
「もうわかっておるのだ。お前のことはククルから、執事のことは余が犯人だと確信している。」
ライアがこちらを振り返り、不思議そうにそして悲しそうに俺のことを見ている。
「ライア、お前言ったよな。今度襲われても刃が刺さらない俺が身代わりになればいいって。でも俺は襲われたとしか言ってない。犯人が刃を持っていたとは一言も言ってないんだよ。」
そこまで行ったところで、ライアは自分の失敗に気づいたようだった。
「いやっ、それはっ・・誤解だ、信じてくれククル。」
「もういい、ライア。」
「親父・・」
執事がしゃべったところ初めて見たな。いつも無口で淡々と仕事をこなすイメージだったがそのイメージそのままのしゃべり方だ。
執事の一言でライアも言い訳をやめ、観念した様子だ。
「魔王様、なぜ私が犯人だと思ったのですか?」
「余は魔王じゃ、気配を悟れないことなどありえん。それを前提として考えたのじゃそうしてみれば簡単なことじゃった。余は犯人の気配を近くできなかったのではない。気配を感じていたが、それを気配と感じなかったのじゃ。」
なるほどそういうことなら納得できる。
「よくわからないのだけれど、どういうこと?」
四天王の一人から声が上がる。
「つまり私は、魔王様の近くに長く居たために、魔王様の生活の一部となり気配を認識することが出来なかったということですね。」
「そういうことじゃ。」
俺たちは初対面の奴やよく知らない奴に対して、少なからず警戒心を持つために気配を感じ取りやすい。
しかし慣れ親しんだものに対しては、安心感からか気配を感じずらくなってしまうことがある。
要するに『慣れ』が今回の魔王様が怪我を負った原因といえる。
「さて、質問に答えてもらおうか。なぜ余とククルを襲ったのじゃ?」
「・・・・・」
執事は答えない。
言えないのか言わないのか、どっちかわからないが黙ったままである。
そしてそれはライアも同じだ。しかしどっちかというと、ライアの方は父親である執事の行動を待ち、余計なことは言わないように様子をうかがっているといった様子だ。
「ここには魔王である世余だけでなく、四天王もいる。まさか逃げられるとは思っておらんよな?」
魔王様のわきにいた四天王が、いつのまにかそれぞれのドアの前にいる。これでは簡単には逃げられないだろう。
「はあ、もういいか。ライア、お前はククルをやれ。残りは私がやる」
「わかった」
執事が溜息を吐き、諦めたかのように戦闘態勢をとった。
俺としては目的を知りたかったんだけど、まあ話さなそうだし仕方ないか。
「というわけだククル。覚悟はいいか?」
「まあ、いいけど。覚悟するのはそっちかもしれないぞ?」
俺とライアが向かい合う。隣では執事と四天王の戦闘が始まっていた。やや四天王が優勢に見えるが執事にはどこか余裕がありそうに見える。
「ここ二回とも俺に負けてるくせに、ずいぶんと余裕だな。」
「・・なあ、なんでこんなことしたんだ?」
「そんなの親父に直接聞けよ」
「違う、お前はなんでこんなことしたんだって聞いてるんだ。」
「ああ、俺自身のことか。さあな、好きに想像してくれて構わないぞ」
「そうか、もういい」
俺がそう言うとライアは突進してきた。
ライアは前回と同じように僕に攻撃する直前で分身した。ここ二回よりも分身のタイミングを遅らせて、俺に対応させないようにしたのだろう。
俺は対応できず、分身と本体、両方から攻撃を受けた。
と、ライアは思っただろう。
だがそうはならない。俺は分身と本体両方の攻撃をさばき、どちらも壁に蹴り飛ばした。
「がはっ・・・なんで・・」
「不思議か?なぜ俺が対応できたのか。」
「対応できなかった前回よりも直前の分身だったはずなのに・・・」
「簡単なことだよ。少し考えればわかるんじゃないか?」
「・・前回は手を抜いていたのか」
「そーゆーこと。お前が犯人かもしれないと気づいていたからな。手の内を簡単に見せるわけないだろ。」
そういって俺はライアに近づく。
既にライアが出した分身は消えている。ダメージで分身を維持できなかったのだろう。
「くっ・・くそっ・・」
ライアはまだ立てない。立とうとはしているが、体に力が入らないようだ。
「おいおい、そこまで強くけってないぞ、せいぜい六割くらいだったんだけど。」
「・・なんだと?嘘をつくな。何か道具を使ったんだろっ!、親父の攻撃よりもはるかに重い攻撃を、お前なんかが使えるわけない」
「そういわれてもな・・実際何も使ってないし」
俺は復讐を誓って転生してから、一日たりとも訓練を怠ったことはない。それこそ毎日気絶するくらいにはトレーニングをしている。
はっきり言ってライアごときでは、相手にはならない。
「なんだあいつは・・あの強さは四天王よりも・・」
少し離れたところで戦闘中の執事から、そんな声が聞こえたがさすがにそれはないだろうと思いつつ、俺はライアにもう一度蹴りを入れ気絶させた。
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