第3話 能力というギフト
「やっと来たか、待ちくたびれたぞ」
「今日は早めに来たつもりだったんだけど」
俺がライアと戦う広場に着くと、ライアは既に準備が出来ていた。
「早く準備しろよ、始めるぞ」
「わかったよ」
俺は上着を脱いで、軽いストレッチをすると、構えをとる。
俺とライアは互いに素手で戦う。
俺は訓練で武器は一通り使えるようにしているから武器アリでも問題ないけど、ライアはもっぱら素手での戦闘を好む。
ライア曰く
「素手でこそ真の強さが分かる」
のだそうだ。
こういうまっすぐすぎるところが、俺に勝てない理由なんだろうなと思いつつ、このまっすぐさに少し関心もしている。
「いくぞ!今日こそ勝つ!」
ライアが掛け声とともに突進してくる。
俺はそれをさばきライアにカウンターを浴びせる。がライアはそれにかまわずカウンターを受けながら俺にさらに突進してくる。
俺はライアの拳を一発食らってしまった。
やはりライアの拳は重い。
戦闘力は俺と変わらないはずだが、単純なパワーに関してはライアの方が上かもしれない。
「へへっ、どうだ」
やってやったとばかりにライアが鼻血を垂らしながら笑みを見せる。
俺のパンチも入ってるんだけどな。
そう思ったがライアは一発拳を入れたことに興奮して忘れているのかもしれない。
また突っ込んできた。
またカウンターでは同じ結果になるのが目に見えたので、今度はライアのパンチをさばくと同時に背負い投げをした。
ライアは受け身をとることが出来ずに顔から落ちて、気を失った。
どうやら今回も俺の勝ちのようだ。
しかしライアはきお失ってから数秒もたたずに、意識を取り戻した。
嘘だろ?どんな体してんだよ。
「あぶねえあぶねえ、数秒だったしセーフだよな!」
いやとどめ刺されてたら終わってたぞ。と突っ込みを入れる間もなくライアは再度突進してきた。
ここでライアの姿が二つに増えた。
突然のことで驚き、何とか片方の拳はかわすことが出来たが、もう片方のパンチをもろにもらってしまい、俺の意識はそこで途切れた。
目が覚めるとライアと戦っていた広場の端にある木の根元にいた。
隣にはライアが寝転がっており、おそらく気を失った俺を運んでくれたのだろう。
「お、目が覚めたか。今回は俺の勝ちだな」
無邪気な顔でうれしそうにしているライアを見て、俺は自分が初めて負けたのだと理解した。
「まさか突進の途中で分身するとは思わなかったよ。いつもは分身してから突進なのに」
「へへっ、騙されただろ、負けっぱなしは悔しいからな、ちょっと工夫してみたんだよ」
ライアの能力は『分身』だ。
一定時間自身の分身を一体生み出せる能力だ。
分身のスペックはライア本人と変わらないため戦闘においては、ライア二人を相手にすることになる。
しかしデメリットもある。分身を生み出しても生み出せるのは体の分身だけで思考は分割することが出来ない。ライアが分身を生み出す際に設定した目的に沿ってしか行動しないのである。
この世界には一部の生物には『能力』という何らかの性能が与えられており、その能力を持つものは、他の生物とは別の存在と考えられるほどだ。
しかし能力といっても万能な能力は存在しない。
ライアの『分身』が一定時間しか出せず、分身自身が思考できないように、何らかの弱点も存在するのだ。
つまり能力は、今回ライアが突進中に分身したように、使い方次第といえる。
この世界で強くなるには能力だけではなく、自身の能力を理解し、使いこなす賢さも必要なのだ。
出来ればほかの魔族の能力も把握しておきたいところだが、能力がばれれば戦闘において大きなアドバンテージを相手に与えることになるため、味方であっても能力はよほどのことがない限り教えないし、聞かない。
それが暗黙の了解になっている。
「ククル様っ。」
そんな考え事をしていた時に、魔王軍の下っ端が、血相変えて俺を呼びに来た。
「なんだ、何かあったのか?」
「魔王様が襲われました。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます