第2話 最悪の転生先?

「ククルよ元気か?」


「はい、魔王様」


魔王の右腕になることを望まれて転生してから15年、俺はすっかり魔王軍の一人として馴染んでいた。

俺にはククルという名が与えられた。

今は魔王様の部屋で毎日の日課である魔王様への謁見だ。どうやら俺は魔王軍の中でも割と高い地位のものとして生まれたらしく、かなり魔王に可愛がられていた。

転生直後こそ最悪の転生先だと思ったが、これはこれでいいのではないかと思うようになっていた。まあ、希望を言えば勇者としてでも転生して、魔族を好きなだけ葬りたいと思っていたけど、勇者は既にいるしな。

いつか来る魔王軍との戦いのために、魔王軍の内情を知っておくのも悪くないと思っている。


「毎日訓練を欠かさず、ご苦労様である。たまには休んでもよいのだぞ。」


「いえ、いつか来る大きな戦いのため、私は強くならなくてはならないのです。」


嘘は言っていない。

俺は魔王軍との戦いのために、訓練をしているのだ。

まあ、そこまで言うわけにはいかないけど。


「・・・そうか、無理はするでないぞ。」


「はい。」


「魔王様、そろそろ会議のお時間です。四天王の皆様がお待ちです。」


「もうそんな時間か、ではククルよ、またあとでな」


「はい、魔王様」


魔王の執事、こいつは戦闘力は高くないが体が異常に頑丈だ。おそらく魔王の盾替わりなのだろう。それに頭も切れるからあまり戦いたくない相手だ。

他にも四天王と呼ばれる奴らがいて今の俺では魔王軍を滅ぼすことはできないだろう。

戦闘力で言えば今の俺は四天王の次くらいの強さだ。15年でこれなのだから上出来ではあるのだろう。しかしそれではダメなのだ。

いずれ魔王をも倒すため、世界で最も強くなるくらいでなくては。



魔王様への謁見の後も訓練だ。

俺は一日の大半を訓練に費やしている。


もちろんまだ15歳なので昼間は学校に通って勉強を行っている。前世の人間の世界では学校に通って教育を受けることが出来るのは、貴族などの位の高い家に生まれた子供だけだった。

しかし魔界では大人生まれの家に関係なく学校に通うことが出来る。

もちろん勉強の出来や、位などでクラスは分けられているが、教育を受けることはできる。

この点は魔族に転生してよかったと思える数少ない点である。

執事が言うには、魔族も以前は人間界と同じように教育を受けることが出来るのは地位の高いものだけであったが、今の魔王になってから変わったのだそうだ。


俺は、学校に通っている以外の時間は常に強くなることについて考えている。

それは復讐を果たすためなのはもちろんだが、単純に楽しいのだ。

前世では何の能力も持たず、人間であるが故、身体能力も限界があった。しかし今は特別な能力があり、身体能力も鍛えれば鍛えた分だけ上昇する。

それが楽しくて仕方がない。


「ハ――ハッハーー、おいククル、今日も勝負だ!」


自分の部屋で筋トレをしていたところで、いつもと同じ声が聞こえてくる。


「今日もかよ。いつも俺に勝てないんだからいい加減負けを認めろよな」


「負けは認めているぞ。だが今日は勝てるかもしれないだろう」


このライアというやつ、俺と同じ15歳でいつも俺に勝負を挑んでは負けている。

かなり好戦的な奴で俺と同じくらいの戦闘力を持っているのだが、戦いの中で駆け引きが出来ないため、いつも俺が勝っている。


「能力を持たないお前に負けたままでは、俺が納得できんのだ」


「そうかよ、じゃあ今日もいつもの場所でな。後で行くよ」


「よし、今日こそは勝つからな。覚悟していろ」


俺は生まれてこの方、誰かの目があるところで能力を使ったことがない。


当然だ。いつか戦う相手に手の内を見せるわけにはいかない。おかげで俺は周りからは能力を持たない変な奴だと思われている。


まあそれでもそこそこ戦えるから、迫害されたりはされてない。むしろ健気な努力家とまで思われていることもある。


「さて、行くか」


俺はいつもライアと戦うときに使っている広場に向かう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る