第14話 潜入!はじめての迷宮探索
儀式が済んだので、さぁ家に帰るか、というとそういう訳ではないのだった。
「大概の場合はな、『
ワシの結果を受けてややしょんぼりしていた父上は、儀式の後の宴会をしているうちに本調子に戻ってきたようじゃ。いくらでも飲めるくせに真っ赤になる顔で上機嫌に明日以降の予定を教えてくれた。
「
遂にこの日がやってきた、というものじゃ。
転生する前の世界、ワシが剣豪ラゴウとして生きた時代と最も大きく違うのがこの「
今の時代は、子供は皆『
「
「ちょっと! そんなことまで教えないでよ、もう」
きっと自分の子供時代の事なんじゃろうなー、と父上の話を聞きながら想像する。随分無鉄砲なこともしていたらしい。……うーん、父上じゃなあ。
「だからな、
父上は首から下げた白銀に輝くメダリオンを取り出す。
「『
この小さなメダリオンは魔導工学の粋を集めて作られているのだという。持ち主個人の魔力の特徴を記憶し、その能力や
苛烈な魔物の攻撃にも年月による風化にも決して壊れることはなく、
「明日はまずコレの発行をしてもらって、そのあといよいよ
▼
「えええええ!? 父上、一緒に来れないのぉ?」
「スマン! 本当にすまん!! どうしても来いって仲間から言われててなぁ」
翌日。
ワシと一緒に
「お前が散々期待を煽ったせいで視聴者のコメントがえらいことになってる。責任取れ」
とのこと。
ワシのことで迷惑掛けるのう……と思っていたら、父上のパーティメンバーの一人である斥候役の【
猫人族のミュウリィさんもフレイ女史と同じく元々は母上パーティのメンバーで、今も現役で
「行くぞっ、オラ! しゃきしゃき歩かんかい!」
「ああああ〜〜〜〜……ケイト、気を付けて行けよー」
さっきまで優しいお姉さん風だったミュウリィさんが、借金取りみたいな声で父上を引き摺っていく。さらば父上。行ってきます。
母上は宿でまだ小さいミラとアトラとお留守番。じゃあワシ一人かーと思っておったら、また来客があった。
「おはようございます、スピカ」
「おはよう、フレイ。朝早いのに悪いわね」
丁寧で真面目そうな声で挨拶をしてくれるのは、昨日も聖堂で出会ったフレイ女史じゃった。
今日も頭には
「……ああ、コレですか? 私の武具なんですよ」
薄手の尼僧服の裾から見えるギラギラと鈍く輝く金属の
(フレイさん、【
うむぅ、痛そう。
「それじゃあ、今日はケイトのことをよろしく頼むわね」
「はい、スピカ。一命に変えましても」
「もう、大袈裟ね。……でも頼んだわ」
フレイ女史は、聖堂の仕事として今日のワシのように親の付き添いが難しい子供達を集めて、迷宮探索のイロハを教えてくれる「初級講座」の講師をしているそうじゃ。そういうわけで、ワシは着物の腰に父上から貰った木刀を刺してフレイ女史と共に
『迷宮都市ズウロン』が誇る“世界最古の
都市に来る際に馬車から見上げた歪に捩くれ曲がる尖塔群を見上げながら街を歩くうちに、その足元までワシらは辿り着いていた。
既に、ダンジョンの入り口前広場にはワシと同じ年頃の子供達が十名ほど集まっていた。皆一様に灰色の、だが真新しいメダリオンを首から下げておる。
「ケイト、貴方にもこれを渡します」
フレイ女史はワシにも皆と同じメダリオンを手渡してくれた。言われるままに首から下げると、灰色のメダリオンは極僅かにワシの魔力を吸収し、背面に自動的にワシの名が刻まれた。
【
これで個人登録が完了したらしい。
「これで皆の準備が整いましたね。それでは、
フレイ女史の号令で、ワシを含む子供たちは迷宮の入り口へ進む。
天を
入場を登録したものが前に立つと、大扉は一人でにゴゴゴゴゴ……と空気を振動させながら左右へとゆっくり開いていった。
扉が開き切ると、
生温く、どこか動物的な臭いと肌が泡立つような気配を感じる。——ああ、懐かしい。これは
(うっひょー、テンション上がるのう!!)
ドキドキと高鳴る胸を押さえて、
他の子供達はワシと似たような昂奮した顔をしたものや、不安そうに前の子の裾を掴んでいるものなど様々な反応じゃった。
(……ん?)
視線? どこかからワシらを見ている気配がした。……ふむ、害意は無さそうじゃが。
フレイ女史を先頭に、ワシらは一団となって
【
「全然、建造物って感じじゃないのう……」
黒鉄の大扉の内側は、いきなり岩を掘り広げられた坑道じゃった。坑道内に光を灯す鉱石があるのか、不思議と
「今日は弱い魔物だけ出てくる第一階層のみで活動します。皆さん、危険なので勝手に先に進まないようにしてくださいね」
フレイ女史は子供達へそう声をかける。
暫くすると、物陰に動くものの姿を捉えた。
「あっ! モンスターだ!」
「僕知ってるよ! あれスライムでしょ!」
「そうです。よく知っていますね。では、キミに最初は任せましょうか」
物陰からワシらの前にぷるん!と飛び出したのは直径三十セント程度の透き通ってプルプルした魔物、スライムじゃった。
低層に出現するスライムは弱い魔物の代表格、というよりも「攻撃手段がない」ことで有名な魔物じゃ。
主に迷宮内の鉱石や苔類、他のモンスターの死肉なんかをゆっくりと溶かして摂食しているらしい。……が、その速度があまりにもゆっくり過ぎて普通の
「キミの魔力は何属性でしたか?」
「ぼ、僕、地属性でした」
「そうですか! 実は私も地属性なんですよ。お揃いですね。……それでは、初級魔術【
フレイ女史は落ち着いた声で前に出た少年に向かって魔力運用のコツを教えてくれる。その間も周囲への警戒を怠っていない。良い教師役じゃなぁ。
地属性の少年は、フレイ女史に教わった通りに全身に廻る魔力の流れを想像し、操作する。
(ほぉ、上手いもんじゃなぁ)
初めての魔力操作だろうに、その少年は難なく魔力を操作してみせて、掌の上に小石を精製した。
「とても上手ですよ! ではそれを魔物に向かって強く、早く、飛ばすイメージをしてください」
「ううん……えいっ!」
パシュッ!
小気味いい音を残して、小石は真っ直ぐにスライムに向かっていって、脇に外れた。
「あぁ、ハズレちゃった……」
「すごいです! 初めててこれだけ真っ直ぐ飛ばせたら十分ですとも。さぁ、もう一度!」
熱心なフレイ女史に促されて、少年は何度か【
「あっ! 当たった!」
飛んで行った小石がスコン!とスライム内の核を捉えて、そのままぷわん!とスライムは消滅した。消えたスライムの代わりに空気中を漂っていた光の小粒が、少年の体に向かっていって吸収される。
「おめでとうございます! 貴方は今、スライムを倒した分の経験値を得ました。これを続けていくと、【
やったぁ!と飛び跳ねて喜ぶ少年。
次私ー! 僕もー! と他の子供達も次々に手を上げる。うーん微笑ましい光景。
……じゃがちょっとワシ、退屈じゃなー。
本当はもっとバリバリ魔物と闘いたいんじゃけど……、と内心ウズウズしておったら、隣にいた女の子がワシにこっそり耳打ちしてきた。
「……こんなザコ潰してもダルくない? 私たちでさ、もっと深い階行っちゃおうよ」
えーっ、それはちょいと、良くないんじゃないかのう?(ニッコリ)
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