第4話 その4

 2人は集落の出口付近の民家の2階に潜み、黒い服ほ集団が来ないか交代で見張ることに決めました。

 やがて日が天頂を過ぎたころ、集落に3人組の黒い服の人影があらわれました。3人は先輩が来た方向とは別の方から集落を出たため、先輩はノザキさんと2人で後を追うことにしました。

 見つからないように十分に距離を保つようにしたためというのもありましたが、3人組の姿はあっという間に小さくなり、程なく見失ってしまったそうです。

 ただ、幸いなことに人が歩ける道は1つしかありませんでしたので、道なりに追いかけていけば良いだろうと2人は話したそうです。

 2人は山に慣れていたため、移動のペースは決して遅くはなかったのですが、それでも3人組に追いつかなかったそうです。

 やがて、太陽が山の端にかかる時刻になりました。周囲はまだ灯りを用いなくても見えますが、そう時間が経たないうちに、暗闇に包まれてしまうことは経験上明らかでした。

 このまま、道を進むか、それとも安全のために集落まで戻るか、あるいはこの付近で一晩を過ごすことにするのか、先輩とノザキさんは決断しなくてはならなくなりました。

「暗闇を闇雲に進むのは危険です。かと言って戻るのも時間がかかりすぎます。どの道でも危険ですが、付近で落ち着ける場所を見つけて休むのが一番リスクが少ない方法です。」

 ノザキさんのその提案を先輩も受け入れ、2人はかろうじて明るいうちに付近で休めそうな場所を探し始めました。

 ただ、これまで来た道を振り返って考えても、適した場所が思い出せなかったことから、2人は少しだけ先に進むことにしました。

 この判断が良くなかったと、先輩は話していました。

 先に進むと、崖の淵を進むような狭い道となり、片側は反り立つ壁、もう片側は茂みに覆われているものの、おそらく急斜面となっており、そちら側へ足を踏み外せば転がり落ちてしまうことは容易に予想されました。

 進むべきか戻るべきか、2人が考えていたところ、不意にズリズリと何かを引きずるような音が後ろの方から聞こえてきました。

「静かに。この音、アイツらの足音です。」

 ノザキさんはそう小声で言いました。気づかないうちに先輩とノザキさんは黒衣の人々に前後を挟まれるような形になってしまったそうです。

「まだ距離はありそうです。それにそんなに足も早くなさそうです、とりあえず道順に慎重に進みましょう。」

 ノザキさんは先輩にそう言うと、先を目指して動きました。

 刻一刻と暗さは増していき、一方でこの細い道がどこまで続くのかはわからない、先輩の不安は募っていきました。また、追いかけていたはずの黒衣の3人組もこの暗さではよく見えないかもしれない。彼らがもし立ち止まっていたとしたら、急に遭遇してしまうかもしれない、そう言った不安も先輩の頭にはよぎっていたそうです。

「なかなか、いい場所は見つかりませんね。」疲れた声でノザキさんはそう言ったそうです。

「私先ほどから、民家でいただいた果物を食べてるんですけど、あなたもどうですか?」ふいにノザキさんは先輩に果物を示してきました。ノザキさんも大変そうな表情ではありましたが、その中でも精一杯の笑顔を作っていたそうです。先輩は、先輩同様にノザキさんも緊張しており、かなり参っていることを悟ったそうです。

 そしてそんな中でも、元気を出して欲しいというノザキさんの優しさを感じました。

 先輩はその時、果物を受け取らなかったことを後悔したそうです。先輩はまだ食料を持っていましたし、何よりも気持ちがいっぱいで何かを食べる気持ちにはなれなかったそうです。

「お気持ちはありがたいですが…。」そう言って断ると、ノザキさんは嫌な顔ひとつせず、

「言っていただければ、いつでも渡せますから。さあ、進めば良いことがあると信じて頑張りましょう。」

 そう言って前進を始めようとしたその時だったそうです。

 ザザッ。

 その音と共に不意に崖の上の方から、黒い服の人物が斜面を下りながら現れました。

「@&○〆%!!!!#+*〜$!!!!」

 先輩には、何を言っているかはわかりませんでしたが、おそらく何か怒っているということだけはわかったそうです。

 先輩は咄嗟に来た道を戻ろうと、体を反転させようとしましたが、足元が悪く、急な動きのために、道から足を踏み外しそうになりました。

 先輩はなんとか踏みとどまり、そのまま後ろを向いて、

「ノザキさん、大丈夫ですか?」

 と声をかけました。

 しかし、そこにはあるはずのノザキさんの姿はありませんでした。


 

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