第4話 僕は狩人、君も狩人

「はーい、今からやるゲームは早撃ちサバイバル! みんなの度胸を試す、いかにもデスゲームっぽいでしょ?」

 モニター内のゼンゼンマンが(以下前話と同文)

 生徒達には奇妙な形をした銃と腕時計のようなバングルを配られていた。正確に言えばバングルはいつの間にか勝手に装着させられていたが。

「そのバングルにはランダムでクラスメイトの誰かの名前が表示されまーす。そいつを今配った銃で撃ち殺して時間いっぱい生き残れば勝利。シンプルでしょ?」

 軽々しい口調で物騒な事を口走るゼンゼンマンにざわつく二年G組の生徒達。

「あ、今回使う銃はスペシャル光線銃だよ。頭か心臓に当たると肉体が吹っ飛んで即死する仕様になってるからしっかり狙ってね。撃った時の反動は少なめにしてあるんで、か弱い女の子でも安心して撃てるからね。制限時間は一時間! スピーディーさが大事だよ!」

 安心出来ようがない。

 教室内でゲームスタートするとそのまま撃ち合いになって大惨事になりかねないので、五分の猶予を与えて校内散り散りに配置されたところでスタート。ターゲットも開始と同時に知らされるようになっている。




 そんなルール説明をするゼンゼンマンの映像を眺めながら、ミツグはある事に気がついた。

「……これ、人数減ってないか?」

 最初のゲームではクラス全員ほぼいたのに(ほぼ、というのはミツグが正確に覚えているか自信がないため)今は教室内の席が所々抜けている。

 さらに細かく見てみるとミツグの友人であるキリオはいるようだが、ユラコの姿はない。他にもラグビー部の橋掛はしかけ、野球部の沢井さわい、バスケ部の加古木かこき……十人ほどの生徒がいない。

「ふむ、よく気づいたね。バカクラスなのに」

「やかましいわ、バカピエロ!」

「失礼な、ワタシには死神戦士ゼンゼンマンって立派な名前があるのに! もっとヒーローを呼ぶような感じに言ってほしいよ。ゼンゼンマーン! って」

「何処の世界にデスゲームに巻き込むヒーローがいるんだよ! まずあんぱん食わせるヒーローでも見習ってから言え!」

 ミツグの怒りの蹴りが飛ぶも、やはりゼンゼンマンに躱される。

「いいかげん怒っても無駄って事を学んでほしいけどなあ。ま、それはさておいて参加人数が減っているという疑問に対する答えはイエスだね。ループさせるたびにデスゲームに勝った人を除外してるんだ」

「じゃあユラコがいないのは」

「ユラコ? ああ、キミの友達なんだ、風見かざみユラコさん。前のアンデッドキングで生き残ったからいないよ。一度でも勝てればもうゲームに参加しなくていいんだよ」

 逆に言えばゲーム中で死んだ者はループさせられて、勝つまでデスゲームをやらされる事になる。

「悪趣味を飛び越えて鬼畜だろ……」

「仕事だから仕方ないよ。ちなみに加古木さんは五体満足な姿で帰したからその辺は安心して。それじゃ続きを見よっか」




 映像内の場面は、サバイバルゲームに戻る。

 いきなり指定されたターゲットを殺して時間いっぱい生き延びろと言われてすぐに対応できる人間の方が少ないだろう。

 単に殺せる殺せない者で明暗が分かれるだけではない。このゲーム、自分のターゲットを射殺するのが勝利条件の一つだが、自分をターゲットにしている者から身を守るのも重要で、しかも誰に狙われているのかは知らされていないのである。

 ちなみに自己防衛のために自分をターゲットにしている人間を殺すのはルール上問題はないが、クリア条件は自分「が」指定のターゲットを殺す事なので、他の人間にターゲットを殺されると自動的に敗北が確定してしまう。そうなったら自害するか、自分をターゲットにしている者に命を捧げるかの二択しか取るべき道がなくなる。

 なので、穏便に生き残る手段はサクッとターゲットを殺して後は誰にも見つからない場所で時間切れまで隠れるしかない。

 そんな事を考えながらもモニターの中のミツグはかなりビビっていた。誰もいない空き教室に身を潜め、銃を握っている手はガチガチに震えていた。

 表示されている名前は譲木ゆずき花梨かりん。ろくに話した事のない地味目な女子で、こう言うのもなんだが親しい人間でなかったのが幸いだとミツグは少しだけ思っていた。

 あれこれ考えて二十分が経過。ようやく戦う決意と覚悟を持った様子のミツグが立ち上がろうとすると、遠くから悲鳴と罵声が聞こえてきた。

その二つは、長い廊下の奥から聞こえてくる。

 そっと戸を開け、外の様子をうかがうと、友達のキリオが泣き叫びながらこちらの方に向かっている。

「逃げるな!」

 そのキリオの約十メートルほど背後から誰かが銃を撃ちながら彼を追いかけている。どうやらキリオは彼をターゲットにしている者に見つかってしまったようだ。


 このままではキリオが死ぬ。一刻も早く助けなければ。


 ミツグの決意は一瞬でそちらに切り替わる。それ以外を考える余裕はなかった。

 戸をさらに数センチ開け、キリオが通過するのを待ち、すぐに銃を構える。

 そしてそのまま追っ手が横切る瞬間を狙って、ためらいなく撃った。

 ゴッという音が熱と共に発せられ、気付いた時には黒焦げになった廊下に、人の足らしきものが二本、転がっていた。グロさを通り越してシュールな死体だった。

 こうなってしまっては追っ手が誰なのか分からない。足はズボンを履いていたので男子なんだろうが、友達を助けるためとはいえターゲット以外の人間を殺してしまった事に改めて苦い表情をあらわにするミツグ。

「た、た、助かったよミツグゥ!」

 キリオが泣きそうな顔でこちらに戻ってきた。

「運悪く俺をターゲットにしてるやつに見つかって、もうダメかと思ったよ」

「オレだっていきなりキリオが逃げてきたのにはビビったっつーの。てか、よく当たらなかったな」

「ああ……走りながら銃を撃つって実はめちゃくちゃ命中率悪いってゲーム動画とかで観たとあるしな。死ぬかと思ったけど」

 そのままへたり込むキリオ。無理もなかった。

「……なあキリオ、このまま二人で組まないか? 今んとこここは安全ぽいけど、このまま隠れてても時間切れで死ぬだけだし腹括って動くしかないだろ」

「ミツグ……」

「別に皆殺しルールじゃねえんだし、ターゲットさえればオレらは助かるんだぜ? それにもうキリオ狙ってるやつはいないんだし、安心して動けるじゃん」

「なんかミツグ、さっきの一撃で変な方向に吹っ切れてないか……?」

 そしてキリオは少し考えてから、やがて決意した。

「……わかった。なんとしても生き残るぞ」

 その言葉にミツグは強くうなずき、笑顔でこぶしをキリオの方へ突き出す。いわゆる友情のグータッチというやつだ。

 だが次の瞬間、ミツグのこぶしはキリオのこぶしに触れる事なく、ミツグの身体は消失した。

「いやー、俺のターゲットはミツグだったんだよね」

 キリオはミツグに向けて撃った銃を数秒間見つめてからそれを制服のポケットにしまった。

「ありがとう、ミツグ。お前のおかげで追っては消してくれたし、俺もなんとしても生き残る覚悟は出来た。後はもうタイムアップまで安全圏だし、お前の犠牲は無駄にしないぜ」




「キリオォォォォォォ!!」

 予想外の裏切りに、モニターを見ていたミツグが絶叫した。

「いやーこれは傑作だね! 友達助けたらその友達に殺されるなんて」

 その横でゼンゼンマンが腹を抱えて笑っている。仮面にはwの文字が列を作って高速で流れていた。

「もしかしてキミの名前って、他人に貢がされる人生って意味のミツグじゃないの?」

「ちげーよ! 御を継ぐって書いてミ・ツ・グ!! 意味はよく分からんけど!」

「まあともかく今回もキミは死んだ。あ、ちなみにキリオ君こと朋浦ともうらキリオ君は生き残ったよ。キミのおかげで」

「あいつ絶対しばく!!」


 ちなみにこのサバイバルゲームで勝ち残ったのは、意外にもキリオ含めてたったの五人だった。

 やはり普通の高校生が生き残りがかかっているとは言え、たった一時間で殺人を決意してそれを実行できる方が稀で、時間ギリギリになるまでろくに動こうとしなかった者が多かった。そのうち緊張と恐怖で精神がおかしくなってルール無用の皆殺しを仕掛ける者が出てきて、場は大惨事。

 ……とまあ、ミツグの知らないところではそんなことになっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る