第3話 不死王と不運ないけにえ
「みんなにやってもらうゲームは「アンデッドキング」でーす!」
モニター内の
「……アンデッドキング? なんだそりゃ」
「ふっふっふ。死神戦士の間で流行したゲームだよ」
モニターをげんなりとした表情で眺めるミツグに、ゼンゼンマンは妙に嬉しそうに絡んでくる。
「人狼ゲームって知ってるかい?」
「人狼ゲーム? あー、確かずっと前に動画サイトでブームになってたな。見る専だけでやった事はない」
人狼ゲームとは、村人達の間に紛れ込んだ人狼を根絶するために昼間は全員で誰が人狼か推理しながら話し合ってもっとも疑わしい者を投票で決めて処刑、夜の間に人狼は村人の中から一人を選んで襲撃して殺す。これを繰り返して人狼を全て処刑出来れば村人側の勝利、村人の数を人狼と同数以下にまで減らせば人狼側の勝利というゲームである。
「アンデッドキングも大体同じ感じでさ、昼のターンに疑わしい奴を一人処刑して、夜のターンに敵であるアンデッドキングが誰か一人を襲撃するって所は共通してるんだけど、最大の相違点はゲーム参加者が何人いようともアンデッドキングは一人だけなんだ」
「……よく分からないがキングが圧倒的不利じゃないのか?」
「ところがそうでもないんだ。人狼ゲームだと夜に襲撃された人はそのままゲームから退場なんだけど、キングに襲われた人はアンデッド化されて強制的にアンデッドキング側の陣営に寝返りさせられるんだ。あ、アンデッドを増やせるのはキングだけだし、村側はキングを処刑しないとゲームは終わらない。ここまでは分かるかい?」
「……なんか馬鹿にされてるような気がするけど、大体は分かった」
ミツグは深い深いため息をついた。
「本来のルールなら生存者全員がアンデッドになったらキングの勝ちなんだけど、人数が
そしてこのデスゲームにおいては、処刑に選ばれた人はその場で死亡、ゲームの決着の時点で敗北した陣営は皆殺しというのがルールであるとゼンゼンマンは付け加えた。
「……これ別に普通の人狼でよくね?」
「ワタシが犬派なのでそれに近い動物が悪役にされるのは個人的に耐えがたいから!」
「デスゲームやっといてどの口が言うか!」
再びモニターに目をやると、長々としたルール説明が続いていた。
一応本家である人狼ゲームにも存在している占い師(夜に一人選んでそいつが人間かどうかを判定する係)や狩人(夜に一人選んでそいつが襲撃された場合、襲撃を無効化する事が出来る係。ただし自分を選ぶ事は出来ない)といったおなじみの役職はあるようだが、問題はこれがただのゲームではなくリアルに処刑されるデスゲームなのである。
普通の人狼ゲームならば占い師が名乗り出て、その結果をもとに誰が敵なのかを推理していくのがセオリーなのだが、リアルで処刑されるというデスゲームの中でやる場合はそうはいかない。名乗った本人は生存率が一気に下がるのが目に見えている。
そもそもアンデッドキングの場合は味方がどんどん敵陣営に変化していくルールのため、いくら特殊能力を持っている役職であっても人狼ゲーム程の有用性がない。アンデッドに襲撃されたらその時点で敵に回ってしまうため、いつまでその力を信頼していいのかが分からないのだ。
未知のゲームに未知のルール。しかも命がかかってる。
つまりどう動くのがセオリーなのか、ミツグ達二年G組の生徒達には分からないのである。
実際ルールを大まかに把握するのが精一杯のなかでゲームは始まり、案の定占い師は名乗り出ないため議論らしい議論は進まずノーヒントのまま処刑する人を選ばなければいけなくなってしまい、皆が固まってしまう。
多数決だけで誰かが死ぬのだ。平静でいられるはずがない。
ゼンゼンマンが「あと十秒で投票しなかったらその人も死にまーす」と暢気な声でせかしたところでようやく震えながら皆は投票した。
そして、処刑台送り第一号に決まったのは。
「はーい、投票の結果、
「いや、なんでだよ!?」
モニターを見ていたミツグが思わず叫ぶ。すでにモニター内のミツグは事切れていた。
死んでいるミツグとこちらを睨み付けてくるミツグを交互に眺めながら、ゼンゼンマンは気の毒そうに、だがそれは演技なのがバレバレな態度で語る。
「なんと言うかいきなりクラスの誰を殺すってなっても、よほど仲が悪い人がいない限りはこいつって決められないみたいで、とりあえず出席番号一番のキミに投票しちゃった人が多かったみたい。うん、断じてキミがクラスの嫌われ者じゃないって事だけはフォローしておくよ」
「だからってあいつらそこまでバカなのか!?」
「それもあながち否定できないんだよね。真っ先にそれを悟った出席番号二番の
映像が早送りされる。
「そしたら次に処刑されたのは出席番号最後の
これにはミツグも頭を抱えるしかなかった。
「というかワタシが仕入れた情報によるとキミの高校って大体学力順で七クラスに分かれてて、キミらのクラスはG組。Gってアルファベットの七番目だよね」
ネチネチと語るゼンゼンマンに、ミツグは返す言葉もない。
事実、ミツグのクラスは成績下位の生徒を集めたもので、本来なら学力不足で留年にされかねない者もいくらかいるような受け皿のようなものだった。
「ま、せっかく企画したアンデッドキングも途中までグダグダでさ。でも終盤になると本気にならないといけないと思ったのか彼らなりに推理し始めたのがちょっと面白かったかな」
映像がさらに早いスピードで進み、誰かと誰かが議論したり泣き崩れたり処刑されたりと淡々と流れていく。
「このゲーム、進行すればするほど占い師役は役に立たなくなるし、あ、ほら一度占ってもそいつがアンデッドになっちゃったら意味がなくなるんだよ」
「よく分からないがポンコツ仕様なのは分かる」
「まあまあ、そう言わないで。推理要素は他にあるから。キミは直接見る事はなかったけど、次のターン開始時に処刑された人が人間かアンデッド側の者なのかの判定が全員に開示されるんだ。そこでアンデッドと判定された人が肝なんだよ」
「どういうことだよ?」
「キングが誰をアンデッドにして味方に付けるかが最重要って事だよ。頭のいい奴がキングなら敵に回したくない奴や捨て駒にしやすい奴を狙うだろうけど、キミ達は思考回路が単純かつ命がかかってるって状況だからね」
「オレがキングなら、まずキリオとかユラコとか一緒に生き残りたい仲のいい奴から狙って、次に味方だと心強い奴に……って何考えてるんだオレ!」
「正解!」
ゼンゼンマンの仮面にCORRECT! という文字が表示される。
「村人側はそれを元に推理していった。一人クロが出るとその関係者をまとめて処刑しようってなるけど、進行を提案する奴も次々とアンデッド化していく。そうなると村人はもうアンデッドに勝たせた方がいいってなって自分を狙わせるように仕向けてくる」
もはやそれはまともなゲームとして機能しているのかも怪しい。
「いやあ、この狂いっぷりがいかにもパニックホラーみたいで楽しいよね!」
「誰のせいでこうなったと思ってるんだ!」
結局ゲームの方は残り十四人になったところでアンデッドが半数になり、アンデッド側の勝利となった。
「この後の負けチームの処刑のシーンは、まあ見なくてもいいよね? もうキミは死んでるんだし」
「いちいち言わなくていい!」
「あ、アンデッドキングは好きに流行らせていいからね」
「誰がやるか!!」
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