第4話 ジュリー氏は自殺したが、僕は男娼なんかじゃない

 娼婦と言う言葉があるが、男娼というのは戦国時代である武田信玄の時代からあったという。

 戦争や競争世界においては、麻薬と売春が必要不可欠なのだろうか?

 そして僕は、その被害者側にたとうとしているのだろうか。

 それなら僕は、芸能界という競争世界の犠牲者ということになりかねない。

 冗談じゃないぜ。こんなことを黙認していると、第二、第三の犠牲者がでるばかりである。

 頭ではそう思っても、僕は行動を起こすことはできなかった。


 興行先から帰ると、プロダクション社長はいつものようにさり気なく僕に接してきた。

「これから君は、スターになる人だ。芸能界の礼儀作法ばかりではなく、しきたりも身に付けねばならない」

 芸能界のしきたりとは、興行主の言いなりになることなのだろうか?

 もしかして、社長は口には出さないだけで、このことを知っているのだろうか?

 ということは、社長は僕を興行主に売ったということなのだろうか?

 長いものには巻かれろとか、郷に入れば郷に従えということわざがあるが、そうやって寄らば大樹のかげのように、権力者のいいなりになることが芸能界で生きていく上でのすべなのだろうか?


 僕のなかに言いようのない悔しさが芽生えた。

 僕はプロダクションを辞め、一人でダンスのレッスンに励んだ。

 繁華街で一人、ストリートダンスをしていると仲間ができ、芸能プロを作ろうという計画が持ち上がった。

 しかし僕の中には、少年愛が芽生え過ぎてしまったのだった。


 僕の被害にあったJRの皆さん ここで謝罪します。

 君たちを傷つけるつもりなど毛頭なかった

 ただ君たちを、自分の下に置いておきたいというエゴイズムから出た行為だった。女性からの誘惑を阻止するという意味でもあったんだ。

 異性間のトラブルで、芸能界を追われる人は多いからね。


 僕の君たちに対する愛は間違っていたのかもしれない。

 もし僕の行為で傷つく人がいたとすれば 僕は今ここで土下座してでもお詫びしたいつもりである。

 

 それでは皆健やかに 心身共に社会的にも霊的にも健やかであってほしい

 僕は長年築き上げてきたジュリー事務所の名をこれ以上、汚すわけにはいかない。

 死をもってお詫びします。


 この遺書は、ジュリー事務所全員に公開された。

 マスコミが自殺の原因を調査し始める前に、先手を打ったわけである。

 これまでマスコミはジュリー氏が性加害を加えていることを、見て見ぬふりをしてきた。

 性被害者が本を出版しても、証拠不十分、売れないタレントのねたみそねみということであくまで沈黙を貫いてきた。

 しかし、ここ八年でジュリー事務所を退所するスターが増加するにつれ、ジュリー事務所は芸能界で力を失いつつあった。

 

 今がいや今こそが、性被害を訴えるチャンスだ。

 ジュリー氏が自殺したこと、ジュリー事務所が力を失いつつある今、僕は恥を忍んでマスコミに訴えることにした。


 男のくせにだらしないという批判にまみれるかもしれない。

 しかし突然なにが起こったのかわからないほど、頭と心が別々になるという恐怖は、経験した者しかわからないであろう。

 逃げ出そうにも、ジュリー氏は権力をもった社長であり、断れば仕事が無くなることはわかっている。そうすれば、僕はタレントとしても生きる道を失ってしまう。

 それでなくても、JRの大半は、学校との両立ができなくて不登校気味にある子も多い。


 また、男にレイプされた少年は、大人になると今度は自分が少年をレイプする側に回るのではないかという偏見もある。

 いや、アメリカではホモレイプが多い。最も現代は、ホモ、おかま、おなべと言う言葉は差別用語になっているが。


 僕は今でも初めてジュリー氏から性被害を受けたときの屈辱を忘れることができない。

 頭が真っ白になり思考回路が止まり、心と身体とが別々になっていく。

 身体はジュリー氏に弄ばれたが、心は屈辱感にまみれた。

 ことが終わったあと、ジュリー氏は出口で深々と頭を下げ、僕に一万円を渡したが、僕はこれで金で買われたと思った。

 しかし、食費にも困っていた僕は突き返す術さえ許されなかった。 

 ジュリー氏は、僕がお腹をすかせ、ときおりグウグウお腹が鳴るのを知っていて、その上で僕を弄ぼうとしたに違いない。

 僕は悔しさと屈辱感から涙が流れ、その涙は止まることはなかった。

 シャワールームですべてを洗い流してしまいたい。

 僕は何度もシャワーを浴びた。

 湯が床に反射する音だけが、僕の唯一の慰めだった。

 僕は汚れてなんていない。誰にも汚されたくない。汚されてたまるものかという意地が僕を支えていた。


 幸い僕と同じ体験をした元JRと共に、僕はマスコミに発表することになった。

 男のくせになぜあらがえなかったのか?

 売れない元JRのねたみそねみではないかという声もあったが、僕は人からどう思われようと、僕の二の舞が現れることを僕はガマンできなかった。

 僕たちはある政党に、これから性被害が起こさないような法案をつくるよう、要求した。そうしないと、日本国中、性被害が広まっていくような、国自体がひっくりかえってしまいそうな予感がしたのだった。


 

 

 

 


 

 


 

 

 

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