第12話 ごめん、ごめん

「えへへ、星はね、大きくなったら未来ちゃんとお仕事するの!」


「へえ、私も入っていいの?」

「うん、いいんだよ!」


「未来ちゃん優しい人だからねっ!」


「ふわぁ……」

「あ、綺羅ちゃんおはよう!」


「綺羅ちゃん、昨日おねんねした?」


「したけど、全然寝れなかったんだ」

「ちゃんとおねんねしなきゃダメだよ!」


「うん、わかった」

「未来ちゃんもだよ?」

「はあ~い」


「おねんねするの楽しいよね!」

「うん!」


まだ幼稚園に通っていたとき。

大人っぽいなあと思いながら、会話していた。


綺羅は、やっぱりどこかかけ離れた存在なんだなと思う。


考え方が私たちと違って、

私たちの考え方を上回るような感じだった。


私と綺羅は、遠い存在なんだなと思う。


友達でもなんでもなかった。


自分で自分を自殺させて、

自分で自分を虐めた。


周りから見れば、綺羅が桜先生を自殺させた。


虐めているようにしか見えなかった。

だけど、綺羅は桜先生と同一人物。


自分で自分を殺すなんて、

私には到底できない。



「残り、7、6……」

機械の声がこの空間に響く。

階段を登っていくたび、

どんどん人影が近づいていく。


そして、強風が吹いてくる。

階段から落ちてしまいそうだ。


「……!」

「桜先生!!」


「なんで来たの……来ないで……」


「いいから!早く!」

「逃げないで!待って!」


「嫌だ!もう、嫌なの!生きたくない!」


「なんで約束を破るの⁉」

「幸せになって!」


「お願いだから!」

「約束したじゃん!」

「私の分まで幸せになってねって!」


「どうして!」

「残り、5……」


「もう、生きたくないの!」

「だから、楽にさせて……」


「桜先生!!考え方が違う!」

「生きたいって思うんじゃない!」

「だったらなによ⁉」


「人を幸せにさせたいって思うことが、人として生きることができる証なんです!」


「ほら、あとちょっとだから!」

桜先生の手を取って、階段を走りだした。

「残り、4…」


目の前にドアがあるのに、通れないのが

すごく、すごく悔しい。


このドアの先が、現実で、本物で、本当が存在しているのに。


パリッパリパリパリパリパリ

私は、桜先生、綺羅の代わりに死ぬんだ。


もう一度、『死』を迎えるんだ。


「桜先生!」

「私の分まで生きられなくなる!」


「だから、早く!」

「嫌だ!」


「階段から落ちるなら未来と落ちるから!」

パリパリパリパリパリ


強風のせいで、前がよく見えない。


「ドアに手を取って!」

「嫌だ!未来と……」


「私のことはいいの!だから、急いで!」

パリパリパリパリ


「もう、階段が全部割れる!」

ガンッ

ゴゴゴゴゴゴゴ

「風が……強すぎる……っ、!」


パリパリパリ

「残り、2」

「時間がない!」


「ドア、開けて!」

「違うの、!開かないの!」


「このドア、風で開かないんだよ!」


『想いを詰め込みすぎたらこの鍵を使ってね』


「残り、1」

「この鍵を使ったら、できる気がする!」


ガチャッ

「眩しい……」


鍵口が強く光り輝いていた。

ガチャッ


「開いた!」

「ほら、!……え?」

ポチャッ


「ごめんなさい、桜先生。」

「私は、私はもう……、」


「生きられ、ない」


「残り、0」

笑顔でみんなと会話を交わしたかった。


次は私が桜先生の心の神様になる番なんだね。

絶対に役割を果たすから。


辛くないよ。約束を果たせたんだから。

幸せな人は辛さを知っている。


よく大丈夫という人はよく無理をしている。

明日笑顔になれるかなと考えるよりも、

笑顔になってみようと思えば楽になれる。


「本当」は強くなく、「信じる」のほうが強く、

本当の、本物の幸せへの鍵になる。

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