第2話 さっきの、
「……、」
さっきのは一体なんだったんだろう。
当たり前のように通り過ぎて行った人たちがとても不思議だった。
——なぜ、私のように動揺しないのか。
人身事故が起きて、なぜ当たり前のようにホームへ戻っていくのか。
駅員さんや警察に、なにも言わないのか。
きっと、誰かが言ってくれる。
そう思っているようにも見えたけれど、
ただ普通にスルーしているだけにも見える。
「日常茶飯事だったら、余計怖いよなあ……」
そう呟いて、家に帰った。
私が通っている学校は市外で、電車で行かなきゃ当然間に合わない。
家に帰ったらオンライン授業。
なぜかって言ったら……、
うちのクラスは崩壊してるから。
まともに授業を受けられない。
私は早くこの場から居なくなりたかった。
早く、卒業したかった。
6年生になったからという理由で、
人格が上がったわけではない。
なのにうちの学年は、
ちょっと気取りすぎかなあ、
なんかもう、ちょっとというより、だいぶ。
ミーティングルームから、声がする。
パソコンから、声がする。
マイクをオフにしておくようにと、
あれだけ言われていたのに。
やっぱりうちのクラスは変。
だいぶ変。
「ってか~、先生遅くね~?」
「担任のくせに間に合ってないとか、」
「マジでダサすぎ~」
「本当に遅くね?」
「先生もサボってんじゃね?」
「うわ~マジでありそうなんだけど~」
やっぱり、周りもなにも言わない。
言えない。
こんな子たちになにができるっていうんだか。
今日は水曜日。
いつものように、学校へ行く。
「うわあ……また満員」
確か一昨日も満員だった気が……、?
ふと、周りの声に耳がいった。
「なあ、聞いたか?」
「またこの近くで人身事故あったらしいぜ」
「マジか、この前もあったよな」
「車掌さんマジで大丈夫かな」
「ちゃんと指示したりしてくれって感じだよな~」
「でも全然ここの駅の周り不評じゃないし、」
「なんか不気味だよな」
「不評じゃないのかよ、余計怖いな」
「だよな~」
「ここの近所の人がどんどん減ってそうだな」
「え、俺らこの周りだけど大丈夫だよね?」
「さすがに大丈夫っしょ」
「近所の人が減ってるとか怖すぎ」
「それな~」
「……、」
多分、というか絶対、
聞いてはいけなかったような気がする。
なんかもう明らかにおかしい。
計画が立てられたかのようにおかしい。
どうして世間に知られていないのかが本当に不思議すぎる。
あの人たちもこの駅に近いのだから、
不評になって当然なはず。
なのに、数百名に知られて終わってしまう。
翌日には、無かったことのように、
また数百名が当たり前のように生活を始めることが、
余計に怖かった。
「電車が参ります」
「黄色い線の内側でお待ちください」
電車が来た。
満員だから、余計入りづらい。
「ご乗車いただきありがとうございます」
「電車が発車いたします」
「車内ではスマートフォンをマナーモードにし、」
「車内での通話はお控えください。」
「次は、新宿。新宿、です。」
あ、次かな。
学校が一番好きなのに、
今は一番嫌いだ。
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