あなたは、誰ですか。

るるあ

第1話 急停車

こんな夢を見たとしよう。

誰かが私に助けを求めて、

私が誰かを助けなければならないとき。

そのときは、私がすべてやらなければいけない。

人は、誰かに必ず大切にされている分、

誰かを必ず助けなければいけない。

どんなに小さなことでも、

どんなに愚かなことでも、

絶対に、人は誰かを助けなければならない。


大切にされることは、

誰かに守られることであり、

大切にすることは、

誰かを守ることである。


大切にされている同士だったときは、

いつもその人の隣にいなければならない。

だから、家族になる。

友達から、親友になる。

だから、守らなくちゃいけなくなる。

もしも誰かを守れなかったとき、

必ず誰か、死に至る。


それを覚悟して今日も、

人は生きていく。


「京浜東北線、15両の電車が参ります」

「黄色い線の内側でお待ちください——」

「ヤバい、乗り遅れる……!」


駆け込み乗車ダメだけど、

今日だけは……、!

「ヤバいヤバいヤバい!」

駅員さんが私を見る。

ごめんなさい!

今日は許してください!

今日だけは!!


えぇぇ、満員⁉

朝7時の満員電車はキツイ……!

ヤバい、乗れるか?

ホームと車両の隙間を跨いで、

電車に乗らせてもらった。


「京浜東北線、発車いたします」

「ドアが閉まります」

危なかった、乗り遅れたら終わるところだった!


もしかして特急だったからかな、

朝7時でこんなに満員ってなかなかないよ、

ここだといつも空いてるし!

いつもだったら椅子にも座れるんだけどなあ……


まあ、乗り遅れてもタクシーかバスでいけるんだけど、

電車のほうが早いからなあ……

あとちょっとで着くかな?

「急停車します」

と、合成音声の声が車内に響く。

そして、車内がざわつく。

車掌さんだろうか、車内放送が流れる。


「只今、人身事故が発生しました。」

「お客様はそのままお待ちください。」

人身事故……ここではあまり聞かない。

というか、初めて聞いたかも?


私が知らないだけかも知れないけど、

もしかしたら、起きていたのかもしれない。

そう考えるとなんだか不気味だった。

毎日乗るこの電車の車掌さんが、

人身事故ばかり起こしていたら——

想像するだけで無理だ。


そして、今私はその真っ最中。

人身事故が発生した直後の車内にいる。

「急停車します」、なんてアナウンスが流れることに、

妙に感心した。


急停車するときにわざわざアナウンスまでしてくれるんだ、と。

どうでもいいとは言い切れないけれど、それはそれで、

また別のような気がした。

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