第4話 立ちはだかる英語
AIに絵を出力させつつ、ネットで情報収集をしていく時間が過ぎる。ワシを困らせたのはプロンプトだけではない。英語だ。英単語。
ノベルAIのAI床屋さんに注文するときは、すべて英単語でなければならなかった。
英語が壁になって立ちはだかる。ワシは早くも魂が抜けそうになっていた。
あれは中学最後の夏休みに入る前。生徒達を剣道場に集め、体育のナガイ先生は言った。
「キミ達。中学生で最後の夏休みです。ここで勉強をしておかないと、一生の後悔をしますよ」
パンチパーマのナガイ先生は、生徒のためにコブシを握りしめ熱く語っていた。だがバリバリ思春期だったワシは
「わしゃ日本人じゃ。日本にいるんだから英語なんて覚えなくても生きていける。勉強なんてしないもんねー」
と、心の中で夏休みは遊びまくる宣言をしていた。あの頃のワシに伝えたい。勉強はなあ、大事なんだよ。
高校受験? 就職活動のとき? 違う。
勉強しなくて英語がわからないとなあ、えっちなCG作るときにめっちゃ困るんじゃあっ。
頭を抱えてしばらく過去の自分を責めていたが、気持ちを切り替えることにした。
過去は変えられないが、未来は変えられる。今から英語を覚えればいいのだ。中学の頃のワシよりも、大人のワシの方が頭の使い方は上手なはず。さっそく、パソコンでインターネットを開いてカタカタっとキーボードを押した。
パソコンの翻訳機能を使って、絵を生成するのに必要な、まぁその、エッチな単語をメモしていく。
・tits(おっぱい)
・ass (おしり)
・sexy(せくしー)
英単語を調べながらAI床屋さんに注文する。
AI床屋さんに注文するときも、このように{{{sexy}}}と囲めば
「せくしーで」「せくしーだからね」「せくしーったらせくしーだかんね!!!」とAIに強めに希望を伝えることができるのだ。
作業は遅いが少しずつ前に進むようになっていった。
英単語をネットで調べている最中、ワシの指が止まった。それはまるで宝箱に隠された秘伝の巻物に出会ったようなものだった。巻物を開くようにクリックする。そこに書かれていたのは最強の呪文であることを知った。
その名もNSFWだ。
NSFWは『Not Safe For Work』の頭文字を取った略語(頭字語)である。Not Safe For Workを和訳すると『職場で見てはマズいもの』だ。ストレートに言うと『えっちな物』と捉えても問題ないだろう。
ワシに当てはめるとNSFWはどういうことかというと、もしえっちなCG集を作っているのが職場でバレたら
「ああた君。きみ、やーらしい絵をAIに作らせているそうだね」
と上司に窓際へ異動を強制され
「ああたさん、カッコいい」
とワシに憧れているかもしれない女性社員は、目も合わさず距離を置かれ
「やっぱね、いつかやると思ってたんですよ」
と近所のマダムはお昼の情報番組にワシの恥ずかしい情報を格安で売ることになるだろう。
それくらい、危険だということをNSFWは表している。職場・教師・親などにバレると社会的な終わっちゃうコンテンツを意味する言葉なのだ。
だがしっかーし。その分、プロンプトに書き込んだときの威力はすさまじく、
こっちが頼んでもいないのに、AIがレイディを勝手にすっぽんぽんにしたり、いやんばかんと言っちゃいそうなくらいのすんごい格好にしてくれたりと、やりたい放題の絵にしてくれるのだ。
NSFWを使ったえっちな絵が、もし間違ってお茶の間のテレビに映ったら、家族に見られる前に即リモコンを手に取り電源を切るだろう。スマホならリビングの窓を開けて遠投する。それくらいの威力が、この呪文にあった。バレたらマズい。
「ぱぱ、
突然来たあちゃ太に反応して心臓が飛び上がった。もしあちゃ太がワシの膝にちょこんと乗って、パソコン画面を見たら大変だ。CG集作りは家族が寝静まっている深夜か、出勤前の朝に作ることにした。
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