第5話 付加価値をつける

 2023年4月5日。ワシは朝からムフフな画像をAIに作ってもらっていた。

 これはえっちだな。むむ、これはえっちではなーい。てな感じで絵を生成し、CG絵として使えるかどうか選別していく。気分はまるで山奥に籠った陶芸家である。昔話の鶴の恩返しを思うこともあった。

 

 鶴の恩返し。鶴は障子しょうじをガラガラッと開けられて正体がバレたとしても、飛び立ってバイバイすれば物語は終わるが、ワシはそうはいかない。AIにエッチな絵を描かせていたオヤジとして子供たちとワイフに冷ややかな目で見られ、気まずい食事と生活を続けなければならない。昔話と違い、現実は厳しいのだ。

 

 AIにCGを作ってもらいながら、ワシは次の一手に出た。

 それはパソコンで絵が描けるクリップスタジオなるものを購入である。略してクリスタ。お値段5000円なり。全く絵が描けなくとも、クリスタを使えばキャラクターのセリフや擬音くらいはつけ足すことができる。

 

 AIが作ったCG集は、絵が何枚も入った詰め合わせセットが多く販売していた。しかし、AIが作った絵の中に文章を入れ、物語をウリにしているCG集は少なかった。これならまだ入り込む余地がまだあるかもしれないと思ったのだ。


 ワシがAIを扱う技術は、今の時点で遅れている。そのまま周りと同じことをしても、最先端のAI絵と比べられたら勝ち目はないだろう。ならどこで差別化を図るか。ワシはAIが作った絵に物語を入れて付加価値をつけることにしたのだ。例えば


「おやめくださいお代官さま」

「よいではないかー。よいではないかー」

「あ~れ~」

 悪代官に着物の帯を取られ回転する町娘の物語や

「おれ、この戦いが終わったら結婚するんだ」

「ケビン……それは絶対、生きて帰らないとな」

 と故郷に好きなおなごを残したまま帰ってこない兵士の物語をつけ足すことができる。

 

 絵を作ることはAIに任せて、ワシは物語を作ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る