第13話 縁切り
あれから。
奏さんと初めてのお家デートをしたあの日から――。
俺と奏さんの関係は、大きく変わった。
変わってしまった。
まず、今まで以上に、メッセージの届く量が多くなった。
一体、いつこんなものを書いているのだろうか。
そう不思議になるくらいの量だ。
当然、返信が遅いと奏さんは、ヒステリックになった。
まあ、もうここまでで――今までの奏さんの行動の数々を見て、お分かりいただけるように。
奏さん――西野奏は。
――メンヘラだ。
俺は、そう判断した。
そんなメンヘラな奏さんは、当然。
『上野先輩だっけ……? できれば、もうあの人とは、二人きりになってほしくない』
そんなことを言ってきた。
まあ、当然だろう。
メンヘラだからとか、そんなんじゃなくても、それは、よくないことだ。
彼女持ち、彼氏持ちの人が他の異性と二人きりでいるなんて状況、普通は、耐えきれないだろう。
その考えは、俺でも理解できる。
しかし――。
俺は、正直なところ、今後のすず姉との付き合い方をどうしようか。
すず姉は、昔から現在進行形でお世話になってきた人だし、そう簡単に関係を変えることができる人ではない。
そう頭を抱え込んでいた。
のだが――。
この前、無断でサボったことの謝罪にすず姉の家を訪れたときのことだ。
「海里くん……。もうバイトに来ないで。ついでに二度と顔も見たくないな」
すず姉は、能面のような表情を浮かべながら言った。
「は……いや……え……?」
俺は、そんな思ってもみなかったことを言われ、困惑した。
「海里くんが、約束も守れない人だって知って、とてもがっかりしました」
そう言う、すず姉は、表情一つ変えない。
しかし。
俺は、すず姉の様子がおかしいことに気がついた。
すず姉は、少し震えていた。
何かに怯えているように見えた。
「とにかく、もう、私の前に現れないでね。あ、働いてくれた分のお金は、お父さんが今度、渡しに行くと思うから」
そう言い残すと、すず姉は、ばたん、とドアを閉めた。
――なんなんだ……?
俺は、不思議に思う。
しかし、それは――すず姉が少し震えていたのは、すず姉との約束を破ってしまった俺を見て、また怒りが混みあがってきたからなのかもしれない。
決して、何かに怯えていたわけではない。
むしろ、そう考えるのが自然だ。
でも、何かが引っかかる。
しかし、もう一度、すず姉と話そうと、インターホンを鳴らしても、すず姉がまた出てきてくれる気配は一切なかった。
はあ……。
ダメだ。
どうしようもない。
俺は、こうして、これを機に。
すず姉と縁を切ることになった。
これは、もうどうしようもないことなのだ。
俺は、そう諦めて、すず姉の家を後にした。
もっと、俺は、こんなにあっさり、奏さんのお願いが叶ってしまっていることに疑念を持つべきだった。
西野奏がメンヘラだ、と気がついていたのなら。
なおさらだった――。
俺は、メンヘラと呼ばれる人たちのことを甘く見ていた。
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