第3話 いばらの道への入り口


 今、俺は、期末テストお疲れ様会をしようということで俊樹と健の2人とファミレスに来ている。


 期末テストの期間中は勉強に集中しようということで、モテない男子集会は行われなかったため、実に1週間ぶりの集会だ。


 しかし、1週間ぶりに行われた集会は、穏やかには始まらなかった――。


「どうして、海里だけ……!」


 健が握りこぶしを作り、ガンッ! とテーブルをたたきながら言った。


「どうしても何も偶然だって……。後、テーブルが壊れると困るからやめてくれ……」


 俺は、憤る健をなだめるように言った。


 こうして健が憤っているのは、俺が先日、SNSアカウントをフォローしてくれた女の子――西野奏さんとDMでやり取りをし始めたということを知ったからだ。


 初めて奏さんからDMが届いたあの日から俺と奏さんは、テスト期間であったため頻繁にとは言えないが、ほぼ毎日やり取りをした。


 やり取りを進めていく中で驚いたことに、俺と奏さんの好きなバンドの趣味が被っていて、その上、奏さんもギターを最近始めたことが発覚したのだ。


 健をなだめる傍ら俺が奏さんとのやり取りを思い出していると――、


「好きなバンドも被っていて、最近、ギターを始めたから教えてほしいだなんて、そんな偶然があってたまるかよ!」


 俊樹も俺に今にも掴みかかってきそうな勢いで身を乗り出し言ってきた。


「ほんとにそう言われてもだな……」


「ああ、殴りたいほど羨ましいわー」


 心底恨めしそうな顔を俺に向けながら健が言った。


 確かにこんな偶然あるのだろうか……? と思わないわけではないのだが、現にその偶然は起きているため、現実の物として受け入れる外ないだろう。


 俺がそんなことを考えていると――、


「まあ、こんな裏切り者の惚気話を聞くのはやめて、スタジオで練習する日程を決めちゃおうぜ」


「そうだね」


 2人が俺のことを置いてけぼりにして、冬休みのスタジオ練習の日程を話し合い始めた。


 ――この前から俺の扱い酷すぎない……?


 俺は、そう思いつつも、これ以上奏さんの話をしようとすると、さらに怒りを買いそうだったため、ツッコミを入れることを控えた。


 その後、全員、冬休みの予定がほとんどなかったため、トントン拍子でスタジオ練習の日程が決まり、各々好きな物を頼み昼食を済ませ、その日のモテない男子集会は解散となった。


***


 俺は、家に帰ると、すぐにベットへダイブした。


 この1週間、連日続いた期末テストの疲れがドッと押し寄せてきたのだ。


 ……やっと、終わったな……。


 ギターの練習にうつつを抜かしていた自分が悪いが、ほぼ毎日徹夜で勉強していたため、俺は、今にも寝そうになっていた。


 ……赤点ないといいな……。


 手放しかけている意識の中、俺は、そんなことをぼんやりと考えていた。


 そして、俺が意識を完全に手放した瞬間だった――、


『ピロン!』


 スマホが通知を受け取ったことを知らせた。


 俺は、通知音に驚いてビクッ! と身体を震わせ飛び起きた。


 ……せっかく寝かけていたのに誰だ……?


 そう思いながら眠い目をこすり、通知を確認すると――、


『テストお疲れ様! 長かったね……!』


 奏さんからメッセージが届いていた。


 通知が目に飛び込んできた瞬間、眠気が一気にどこかへ吹き飛んでいった。


 ――こんな些細なことでメッセージを送ってくれるってどういうこと!?


 俺は驚きながら慌ててスマホのロックを解除し――、


『お疲れ様! ほんとに長かったね! 数Ⅰ難しすぎて赤点かも(笑)』


 奏さんにメッセージの返信をした。


『ピロン!』


 俺が返信すると、すぐに奏さんから返信が返ってきた。


『大丈夫だよ! 私も数Ⅰやらかしちゃったから!』


 やはり、今回の数Ⅰのテストは難しかったみたいだ。


 ちなみに俊樹と健は、毎回、学年1位争いをするほど頭がいいため、聞くまでもなく、会心のできであり、2人とも『あんなの授業をちゃんと聞いてれば解けるだろ』などと、数学が苦手な俺からすると嫌味にしか聞こえないことを言っていた。そのため、俺は、テストが難しかったかどうかの判別をつけることができなかったのだ。


 俺は、自分だけができなかったわけではないことを知って、ホッと胸を撫でおろしていると――、


『ピロン!』


 俺が安心している間に奏さんから更なるメッセージが届いた。


 俺が我に返って、画面に再び目を移すと――、


『ねね、来週から学校が早く終わるじゃん……? もし予定がなかったらでいいんだけど、お昼一緒に食べない?』


 そのあまりに魅力的な提案に俺の心臓は高鳴るどころか、一瞬動きを止めた。


「ふう……。落ち着け……」


 俺は、興奮で言うことを聞かない心臓を落ち着けるように深呼吸をした。


 3分くらい経って、ようやく落ち着くことができた俺は、興奮して気づかぬ内に枕元に投げてしまっていたスマホを回収し――、


『いつでも暇だから、そちらの予定に合わせるよ!』


 まだ興奮が冷めないのか若干震える手でスマホを操作し、返信した。


 本当は毎日モテない男子集会があるが、そちらは、欠席したところで何も問題ないだろう。


『ピロン!』


 俺がモテない男子集会のことを考えている内に奏さんから返信が来た。


『それじゃ、気兼ねなく遊びたいし、来週の金曜日にしよ!』


 メッセージを見るなり、俺は、来週の金曜にモテない男子集会以外に本当に予定がないか確認して――、


『わかった! 楽しみにしてる!』


 メッセージを返信した。


 こうして、俺は知らず知らずのうちにいばらの道へと足を踏み入れてしまった。


 


 


 




 


 

 

 


 


 


 









 










 


  

 






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