第2話 モテない男子の勘違いか否か
カナデさんにSNSアカウントをフォローされてから数日後。
「お、今日の投稿にもカナデさんから『いいね!』来た!」
俺は、興奮気味に言った。
カナデさんにフォローされたあの日にSNSに写真を投稿してみたところ、思ったよりも学校の色んな人に『いいね!』を押してもらえたのが嬉しくて、俺は、すっかり写真投稿にハマってしまった。
写真を投稿するからには、本気でやってみたいと思い、俺は、カメラに造詣が深い父親に頼んで、使わなくなったカメラを譲ってもらい、それからは、毎日、写真撮影に勤しんでいる。
こうして毎日、写真を投稿するようになったのだが、先日、俺のアカウントをフォローしてくれたカナデさんは、俺が写真を投稿する度に毎回『いいね!』を押してくれるのだ。
俺は、先日は、俺に興味があるなんてそんなわけないと長年のモテない男子としての経験からその考えを一蹴したが、やはり、こんなことをされると、俺に興味があるのかな……? などと、考えてしまう上、カナデさんが『いいね!』を押してくれる度に、頬を緩ませてしまうようになっていた。
そして、今も友人たちの前だというのに、俺は、だらしなく頬を緩ませている。
「「……」」
そんな俺を俊樹と健が無言でじーっと見てくる。
「な、なんだよ……。お前ら……」
俺が後ずさりながら言うと――、
「いやー、楽しそうで何よりですねー」
俊樹が感情のこもっていない声で言った。
「俺たちを差し置いて酷いよね」
健は、俺のことを見ながら恨めしそうに言った。
「いやいや、お前らだって俺の立場だったら絶対浮かれてるだろ!」
俺は、自分に妬みをぶつけてくる2人に興奮気味に反論した。
「それはそうだが、ムカつくものはムカつく」
俊樹が腕を組みながら『うんうん』と、頷いて言った。
「全くだね」
健も腕を組みながら頷いていた。
「まあ、モテない男子の勘違いはどうでもいいとして、今日は、2月のライブに向けてコピーする曲と俺たちのオリジナル曲をどうするか決めようぜ」
俊樹が話の話題を強引に変えてきた。
――いや、勘違いって、お前らさっきめちゃくちゃ妬んでただろ……。
そうツッコミを入れようとする俺を他所に――、
「あ、俺、もうやりたい曲リストアップしてるから。はい、これ」
健は、チャットアプリのグループにやりたい曲リストを送信した。
さっきの俊樹の発言からわかるが、俺たち3人は、バンドをしている。
ちなみに俺がギターボーカル、俊樹がベース、健がドラムス担当のいわゆるスリーピースバンドというやつだ。
うちの高校には、軽音部がないのだが、なぜかバンド活動が盛んであり、1年生は俺たちを含めて3バンド、2年生は6バンド、3年生は5バンドと合わせて、14バンドある。軽音部がない学校にしては、かなり盛んな方と言えるだろう。
そして、俺たちは、2月に同じ学校のバンドの有志が集い開催されるライブに出演することになっているため、コピーする曲とオリジナル曲をどうするか決めなければいけないのだ。
無論、言うまでもないが、俺たちがバンドを始めた理由は、モテそうだからである。
しかし、いざバンドを始めてみると、そんな不純な動機のことなどすっかり忘れ、俺たち3人は、彼女を作るための努力の傍らバンド活動に必死になっている。
「健のやりたい曲を見た感じ結構、難しめな曲が多いと思うんだが……。海里はどうだ……?」
「俺は、このバンドを始めてもう、半年は経っているんだし、そろそろ、俺たちも初心者を卒業できるようにチャレンジしてみてもいいんじゃないかなって思うけど」
「それもそうだが……。オリジナル曲もあるし……」
どうやら俊樹は、難しい曲の練習とオリジナル曲の制作を両立できるかが心配なようだ。
俊樹は、以前にオリジナル曲の作成のために音楽理論の勉強を3人でしたときにあまり理解できていない様子だったため、不安になるのは無理もない。
「オリジナル曲なら、俺と海里にほとんど任せてくれて大丈夫だから……! もちろん、俊樹を仲間外れに勝手には、完成させないから!」
健が、不安げな顔を浮かべる俊樹の両肩をガシッ! と掴みながら言う。
「そこまで言うんだったら健の案でいくか! 弱気になってすまん!」
俊樹は、気合を入れ直すように頬を両手でパチン! と叩いて言った。
「よし! そうと決まれば、まずは、俺がギターでメインリフを考えて、俺のリフを基に健がトラックを作ってもらって、それを俊樹にチェックしてもらった後、バンドアレンジする感じでいい?」
「それでいいよ。なるべく早くしてくれると助かる。後、歌詞は、海里がボーカルなんだし、海里が考えてほしいな」
「了解!」
こうして、2学期の期末テストも近いということもあり、少し早いが今日のところは、解散となった。
***
俺は家に帰るなり、オリジナル曲の制作に取り掛かった。
しかし――、
……全く、いいフレーズを思いつけない。
正直言って、まだギターを始めて、半年くらいの初心者には、荷が重いが、自分が初心者を卒業したいと言ったからには、そんなことを言っていられない。
そう考えながら俺は、スマホでギターリフを作るコツを検索してみた。
こうして、すぐに情報が手に入る時代に生まれることができてありがたいものだ。
「へー……。やっぱ、好きなバンドから影響を受けるべきなのか……」
俺は、とあるバンドマンがリフの作り方を説明するページを見ながら独り言を言った。
……そうとなれば、とりあえずしばらくの間、好きなバンドのリフを練習しまくるか……!
そう考えた瞬間のことだった――、
俺は、写真を投稿しているSNSのストーリーズの機能を思い出した。
あれにギターの練習日記みたいな感じで動画を載せればモチベ維持に繋がるのでは……?
我ながら名案だと思った。
俺は、早速、ギターをオーディオインターフェースに繋ぎ、今、練習している曲のリフを弾いているところを撮影した。
撮影を終えて、音源とカメラで撮った映像にズレがないかを確認した後、俺は、すぐにその動画をストーリーズに上げた。
***
ストーリーズにギターを練習している動画を上げ始めて、数日が経った。
最初の頃は、ストーリーズに下手なギターの練習動画を上げるのもどうかとは、思っていたが、それ以上に人に見られることを意識して練習できるため、俺は動画を上げ続けることにした。
「今日も、練習終了っと……!」
明日から2学期の期末テストが始まるため、ギターの練習をいつもよりも早く切り上げ、勉強に取り掛かろうとしていた。
「おっと、勉強する前に動画を上げなければ……」
俺は少し慌てて、スマホを操作し、動画をストーリーズに上げ、自分の弾いているところを改めて見直した。
……それにしても、こうして、動画に撮って自分が弾いているところを見ると、改善点がわかっていいな。
いかに自分が弾けていないかがよくわかり、これからも頑張ろうと思いながらスマホを置いて、教科書に手を伸ばした瞬間だった――、
『ピロン!』
スマホが通知を受け取ったことを知らせた。
俺は、教科書を置き、すぐにスマホに手を伸ばし、通知を確認した。
すると――、
『突然DMしてごめんなさい! 1年5組の
先日からずっと気になっていた最近、俺のSNSアカウントをフォローしてくれた女の子――カナデさんこと西野奏さんからDMが届いていた。
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