メンヘラな君を離せない。

しろがね

第1話 全ての始まり


 彼女が欲しい……!


 俺こと、北野海里きたのかいりは、高校に入学して以来ずっと思い続けていた。


 もちろん、心の中で思うだけでなく、女子に少しでもよく思ってもらえるように見た目には気を遣っているつもりだ。


 しかし――、


「彼女ができない……!」


 俺は、通っている高校に隣接している広めの公園にある野郎どもとの集会所でぼやいていた。


 そう。彼女ができる気配が全くないのである。


 この過酷な現実に立ち向かっているのは、自分だけではなく――


「ほんとになー」


「それなー」


 高校でできた友人の大野俊樹おおのとしき東野健ひがしのたけるが俺の言ったことに心のない人形のように無表情で返答した。


 俺たちは、このように、放課後に近くのコンビニでお菓子を買い、ほぼ毎日、公園のこの場所に集まっては、彼女ができないことをぼやき続けている。


「そもそも、彼女ができるとかそれ以前の問題に仲のいい女子すらいないし……」


 俊樹がため息をつきながら言った。


「一体、俺たちの何がいけないというんだ……?」


 健も俊樹に続き、ため息をつきながら嘆く。


 この集会が2学期のある日に初めて開催されて以来俺たちは、このような会話を幾度となくしている。


 周囲の人たちからすると毎日同じような会話をして飽きないのか……? と、呆れられそうだが、俺たちにとって彼女が欲しいという願いは、切実なため、彼女ができるその日までこの集会は続くだろう。


 そうは言っても、この集会はいつまで続くのだろうか……? いつまでもこんな風に過ごして高校生活が終わっていくなんて嫌だぞ……?


 そんなことを考えながら――、


「はあ……。この前からやっているSNS作戦もうまくいかないし……。2人はどう……?」


 俺は、先日の集会で提案したSNS作戦の進捗を2人に聞いた。


 SNS作戦とは、安直な考えだが、学校での行事や部活、そして、委員会などでの出会いに期待するのではなく、SNSで同じ学校の人達と交友関係を築いて、そこからの出会いに期待するという俺が提案した作戦だ。


 最初に自分で思いついたときは、結構いい作戦なのでは? と自画自賛していた。


 しかし――、


「全くダメだ。フォローは返ってくるけど、ここからDM送ったりするのも出会い厨感すごいしうまくいくわけないだろ」


 俊樹がスマホの画面をぼんやりと眺めながら言った。


「俺も、全く同じ状況だよ」


 健も苦笑いを俺に向けてきた。


 そもそも、よくよく考えれば、今、俊樹の言ったようにSNSを始めた動機を考えれば、もう既に俺たちは出会い厨であり、フォローが返ってきたとしてもそこからDMでの会話につなげるのは至難の業だ。そんな状況下でDMを送ったところで、後々、『こんな人からDM来たんだけど! キモくない……!?』と、女子会のネタにされるのが関の山だろう。


「ほんとにすまん……。ただの欠陥作戦だった……」


 俺は、うなだれながら言った。


「まあ、俺たちも最初は、神みたいな作戦だと思ったし……。次に活かそうぜ、兄弟……」


 俊樹がうなだれる俺の肩をポンと叩いた。


 そんなときだった――。


『ピロン!』


 スマホが通知を受け取ったことを知らせた。


 ――この時間に通知が来るなんて珍しいな……?


 基本的に俺のスマホには、俊樹や健を除けば滅多にメッセージが届くことがないため、俺は不思議に思いながらスマホの画面へと目を移した。


 すると――、


『Kanadeさんにフォローされました』


 つい先日、始めたSNSアプリからの通知が目に入った。


 その通知を見た瞬間――、


 今まで自分からフォローリクエストを送ることはあっても、送られてくることは、ただの1度もなかったため俺は、動揺してしまった。


 ――落ち着け……。もしかしたらカナデって名前の男子かもしれない。


 そんなことを考えながら俺は、アプリを起動し、フォローされたアカウントのプロフィールを確認した――。


 ……女子だ。


 僕のアカウントをフォローしてきたアカウントは、同じ学校の同学年の女子のものだった。


 いくつか投稿を見て、本当に女子か確認したが、紛れもなく女子だった。


 SNSを女子にフォローされただけで舞い上がるなんて、ほかの人たちにはさぞ滑稽に思えるだろうが、女子との出会いに飢えていた俺にとっては、舞い上がらずにはいられない出来事だ。


「どうした……?」


 明らかに様子がおかしい俺を見て、健が怪訝な顔を向けてきた。


 俊樹も同様に、俺に怪訝な顔を向けている。


 俺は、怪訝な顔を向けてくる2人におそるおそる言った。


「女の子にSNSフォローされたわ……」


「「はあああああ!?」」


 俊樹と健が驚きと憤りが混じったような声を上げた。


「なんでお前だけ……」


 俊樹が恨めしい顔を俺に向けてきた。


「俺たちを差し置いて酷いぞ……」


 健も血の涙を流しながら言っていた。


「そう言われてもだな……」


 困ったように言う俺のことなど露知らず、俊樹と健が叫び、走り出した。


「「この裏切り者がああああ!」」


「お、おい! 2人とも待て!」


 俺が慌てて声をかけるも、2人は止まることなく走り続け、2人の姿が見えなくなってしまった。


「裏切り者と言われてもな……」


 俺は、頭を抱えながら独り言を言った。


 まあ、どこかへ行ってしまったあいつらのことは置いておこう。


 今は、もっと重要なことがある――。


 俺のアカウントなんてフォローしても何もいいことないと思うんだけどな……。


 俺は、冷静さを取り戻し、カナデさんがどういうつもりで自分のアカウントをフォローしてきたのかを考え始めた。


 ……俺のことを気になっているとか……? いや、そんなわけないか。


 モテない男子のテンプレみたいな思考が一瞬浮かんだが、長年のモテない男子としての経験から、それはないと、すぐに一蹴することができた。


 そんな風に思考を巡らせながら俺は、スマホを操作し、自分のアカウントのプロフィール画面を表示した。


 せっかくフォローしてくれている人もいるし、投稿したりするか……。


 カナデさんが投稿している写真を見て、自分も写真を投稿してみたくなったのだ。


 そう考えた俺は、何を投稿すればいいのかわからなかったため、まずは飼っている猫の写真を投稿してみた。


 いいねがついたりすることは、あまり期待していないが俺は、初めての投稿になぜか緊張していた。


 そんなときだった――、


『ピロン!』


 スマホが通知を受け取ったことを知らせた。


 俺は、おそるおそるスマホを確認すると――、


『Kanadeさんがあなたの投稿にいいね! しました』


 俺は、その通知に思わず、手を震わせた。


 思い返せば、この出来事が俺の人生の歯車が狂いだす全ての始まりだった。




 


 


 


 





 

 


 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る