第11話

「大変だったのね。ふたりとも」

海外出張から帰ってきていた、妻がいた。

驚いた。いつの間に。

「ママ」

ゆっくりとした動きで天華が、ソファから立ち上がり妻に抱きつく。

妻も天華を抱きしめる。

「あなたを産めてママは幸せよ。天華」

頭を撫でる。

「でも私、前世では人殺しなんだよ。車も運転も大好きだったのに、それに」


いまのパパのこと好きなのに、許せなかった日々がある。


「ママ、ママが前世で産んだ男の子を、私は轢き殺したんだよ」

「そんなこと言わないで。天華。それは、許せなかったり、辛かったり、複雑な気持ちなはずだけど、私は今、天華の母なの。

変わらないのは子供が大事、その思いでママはママを支えてるわ。それに、前世のあなたも、報いを受けたはずよ」

真剣な目で語り出す妻。

本当にこれは事実なのか。しかし、三者三様、記憶があると訴えているし、父たる俺にもある。

天華は、続けた。

「わからないの。人を轢いてしまったあと、捕まったのか。それとも、自分も衝突のショックで死んじゃったのか」

思えば、前世の肩書や思い出はともかく名前や地名はさっぱり思い出せない。きちんと調べれば新聞の記事くらい出るのでは?ネットの記事は?

だが、なぜだろう。

過去。

前世の天華の罪を見付けたく無い。百歩譲って俺の死亡記事はいい。だが、本当になぜだろう、天華に前世の名前やその後犯罪者の家族として、天華の前世の家族がどういう扱いを受けたか、本人がどう感じるか分からないが。

父親たる俺は、知ってほしく、ない。


「ママ」俺は問いかける。

「俺はどうすればいい」

心底考えていた。単純に、生まれ変わった俺はアイドル業やモデルの仕事を頑張る天華を推して、ただ応援する、それだけだったら良かったのに。


「自分で考えて」


妻は、ママは冷たく言う。

「私だって、前世ではあなたの母で、天華の母で、何より、普通に生きてきたこの時代の一人の女性だったの。天華から全てを聞かされるまでは、ある日自分で気づくまでは、信じられなかった。そしてこれは、集団幻覚なのかしら、とも思うのよ。でも、私は、女で、妻で、母だから。それだけは変わらない」

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