第7話
私の前世。
それは、女性の、タクシー運転手だった。
いろんなことがあった。許せないこと。運転がやっぱり好きだということ。道に詳しくなりいろんな店に、会社に、お客さんを降ろすこと。
当時は珍しい、女性タクシードライバー。
毎日いろんなお客さんが乗るんだから、ドラマにして欲しいくらいだった。
そんな時、ひとりの身なりのいいビジネスマンが、明らかに苛ついていて、後部座席からシートを力強く蹴ってきた。
女性だから、すこしは舐められただろう。
そう思った。
気にしないようにした。
でも。
私のお父さんは、スーツとは縁遠い、工場で作業着と安全靴を履いてネジとかワッシャーを作る、作業員だった。
涙が溢れた。
スーツを着ている人が偉いんじゃない。収入が多い人や身なりのいい人が偉くて、幸せとは限らない。睡眠時間が多いとも限らない。でも。
私は、
「うっ、えぐ、ぅ、うっ」
我慢しながらその日、泣いた。
ハンドルに力弱くてをかけ、頼りなく感じながら。
こんなにタクシーも運転も、「タクシー運転手」自体も好きなのに。両親は驚いたけれど、都会の空気を知っていた人達だったから、応援してくれた。
シートを蹴ったビジネスマンはとっくにお金を払って去って行ったのに。もう、顔もよく覚えていないのに。
次の日から、私は、丁寧な運転に、慎重さを更に上乗せに上乗せした。大丈夫。車内カメラはあるんだから。今までの、慎重さに、輪をかけただけ。
忘れて仕事を続けていくはずだった。
車内カメラで確認した、あのビジネスマンを、都心のとある企業が並ぶ道で見つけなければ。
なぜ、よみがえったのかわからない。
恐怖なのか。復讐心なのか。
ちがう。
緊張の、糸が、切れたのだ。
「つぎまた同じ人に当たったらどうしよう」
私は、若かった。二十代だったのは覚えている。
相手は三十代後半くらいで、こちらも世間的には若いといえば若い。
「嗚呼……」
殺意があったわけじゃない。
ただ、生まれて初めてだったのだ。
酔っ払いでもセクハラ親父でも、厚顔無恥のオバタリアンでもない人に、理不尽な強い鮮烈な怒りをぶつけられたのが。
私は。
自分の車ではないけれど、愛車のように感じていた会社のタクシーで……
衝動的だった。
次に目覚めた時、私は
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