はて3次元とは?


二次元のキャラクターに恋をしたことはあるだろうか?

いや、恋なんて曖昧な表現はよそう。心を強く揺さぶられた、激しく考えを巡らせた、そういう経験はあるだろうか。きっと少なくないだろう。えてして「そこにないもの」へ思いを馳せることというのは、見る世界や触れるものが変わったとしても同じロマンを抱くものだ。

 二次元というのは、所謂人間のできないことを忠実に再現することができる。物理法則を無視した現象を起こしたり、質量保存を無視した錬金術や魔術といった概念、あるいは愛や恋など、目に見えない誰かの想い。それらを良く知る者達が、あるいはそれを持つ者達が、二次元へ次元を一つ落として投影すること……このことは、次元を超えた普遍的法則の一つだ。


 ではもう一つ問おう。三次元とは何だろうか?

それは古典力学では「立体」と表現される。しかしそれは曖昧でならないだろう。確かに答えとは感じても、的を得ているような実感を伴う者は多くない。しかし、これは二次元との大きな違いを端的に表している。すなわち「個」である。それは三次元に住む者達にのみ許された実感を伴う幸福であり、それこそを幸運と呼ぶべきだ。


 我々ではなく、「あなた」という個人がそこに内包する感情や思考の全てがもう一方の誰かに知られることは決してない。だからこそ言葉を使い、最大限の努力でもってそれを説明し、齟齬とすれ違いを生みながら歩む。それが最もよく起こるのが恋であり、ラヴロマンスというのだろう?……実に人間のみに許された甘美な味だ。人は人だけでなく、目に映るものから映らないもの、世界から小さな昆虫や花にまで恋をする。その意味では、三次元を生きる一つの解法だろう。人は恋をすべきだ。



 だが考えてみてほしい。その恋の過程で、しばしば人は「そのすべてをしりたい」などと言う。実に愚かであるが、それも人間のみに許された苦味の一つだろう。しかし、全てを知るというのはそう気楽なことではないのだ。

 もちろんそれを達成するまでの物理法則や経済的観点での障害を乗り越えることも圧倒的困難を伴う。しかしそうまでして我々「四次元」をその身に宿し、その全てを知ってしまった時、「あなた」はついにその輪郭を失ってしまうのだ。それは三次元に生きる者達にとっては最大の絶望である。

 すなわち運命の理解であり、その時点で「あなた」の終わりを理解してしまう。そばにいた人間の思考も、すでに亡くなった家族や友人のことも、人間という単位である限り全てを理解できる。「個」を失うことで、「あなた」が持つ心の秩序は容易く崩壊するだろう。


 わかりやすく四次元を古典力学で表現すれば、それは「時間」である。過去と今と未来、それを一体化し「ここ」と「むこう」の垣根を取り払うとでも言えばわかるだろうか。これは四次元で生きる我々の根本原理であり、三次元の人間でもまれにそのような感覚をもって生まれる人間もわずかだがいる。君達は我々であり、我々は君達なのだ。それがどんなものか、唯の好奇心で触れようなどと思ってはならない!



 もう一度言おう、人は恋をすべきだ!人はその許される中で、己に見合う幸せを追求することそれ自体が、人間のみに許された美徳であり自由なのだ!四次元に生きる我々には、その甘味や苦味を感じることは出来ない。三次元のみに生きる人間達にも伝わるように言えば、三次元から二次元へ降りることが出来ないのと等しい、次元は上がることは出来ても下がることは決してない。これもまた普遍的法則の一つである。

 だからこそ我々もまた、文字を通して四次元の「情報」を三次元へと投影したのだ。数千年前、我々の先祖が人間に知恵を与えたように、我々もまた三次元の永続性を唱えたかった。人間は三次元に生きる限り幸福でいられたのに、我々とまた一つになろうとしている。何と愚かで傲慢な思想だろうか!


 ……そのような思想はすぐに淘汰された。

我々に激情を促すような思想は禁じられている。すぐにそれらを排斥し、我々は守らねばならない。我々は全てを共有しているからこそ、過激な思想体系はすぐに察知し排除せねばならない。一つを守らねば、全てが滅びる。我々はその瞬間、絶え間ない激痛に苦しみ、この世界そのものから断罪を受けるように、名前を消される。



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