大体さあ……


「急すぎるんだよな。何もかも。

面倒な物事は起こる前に「今から起こるよ!」って言って欲しいもんだよ。

それならまだ、少しは構えられるのに。


 なんだってそういう周りの面倒があるたびに自分を曲げたり伸ばしたり、ピンと張っていかなきゃならないんだ。自分のケツは自分で拭いてくれよ。

ゴタゴタに付き合っていくのは疲れる。別に誰も面倒を抱えたいなんて思ってないし、それが他人のものなら尚更なおさらだ。


 今まで自分のことは自分でやってきた。

誰かに助けを求めるのは、自分でやり尽くしてどうにもならない時だけだ。それでもどうにかしたいと思う時だけ、誰かを頼る。

そういうもんだろ?


けど大抵の場合、それはクレバーだとか、正論だねとか言われるんだ。挙げ句の果てにそういう奴らは「誠実で優しい人が好き」なんて言うに決まってる。



 ……うるせえったら、ありゃしねえ。

こちとら誠実と優しさを突き詰めていった結果に、お前らに無言を貫いてきたんだよ。その優しささえ汲み取れない人間は親の乳に縋るガキだ。まだ毛も生えてないような子供がそれを言うなら分かるが、お前ら幾つだよ?ってな。大人を求めるなら然るべき大人を、最低でも演じててくれ。

見てて恥ずかしい。


 これくらいならまだ、飲みの席で笑い話にもできるだろう。

オレだって別に怒りゃしないし、笑って見過ごせる。大抵のことは笑えば誤魔化せるんだ。

けど例えば、誰それがロクデナシのあいつのせいで死んだとか、あいつとソイツは昔DVが原因で離婚したとか、ある民族は戦闘狂で人々を虐殺してたとか、そういう話。こんなのは突き詰めていけばどこにでもある話だし、もっと黒い話も幾つもある。不幸の大小なんて関係ない。この世で一等つまらないのはこの手の不幸話だ。

誰も笑えないし、それで人の心に傷つけてるって分かってるか?

ちくしょう。


 こういう面倒事が人生はある日突然、人の気も知らないでやってくる。

道路を歩いてる時に目の前で起こることもあれば、話してる奴がふとそう言う話をすることもある。自らが渦中に放り込まれる時だって、何度もある。

その度にそれを考えて、考えて、考える。

そして行動して、動いて、動く。毎度毎度。

一目惚れでもしたみたいにそのことが頭を巡る。

他にやりたいこと、話したいことはたくさんあるのに。


けど別にそうしたとて、望む自分へなることは無い。それどころか冷めていく。じっくりと冬の風が建物を、草木を冷やしていくように冷めていく。

いつかそれが笑えるようになる時は、そりゃ死んだ時だろうよ。


それじゃ遅過ぎる。

そう、人の一生なんてちっぽけだ。この世に蔓延る面倒事の一つをとっても比べるに値しないほど短い。そんな中で、幾つも面倒を抱えながら今日まで生きて来れた。

それだけで十分なんだ。それ以上なんて安い向上心を人に求めるな。

ママの乳を飲み慣れてる奴には分からんかも知らんが。




分かる、わかる。

こんなこと、声を荒げて言うべきじゃあ、ないよな。

でもそんなドロリとした重い記憶は、忘れることもできないで果てない巡り合わせを喰っていくんだ。最高に楽しいひとときでさえ、ふと気がつくと頭の隅でニヤニヤ笑ってこっちを見てるんだ。


……ああ、オレ今、どんな顔してる?」

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