サプライズさえも
煩わしい都会から離れ、その夫婦は青々と森が笑う、山間の田舎へ引っ越した。最寄り駅から自宅までは車で一時間かかり、何を買うにも車に乗らなければならない。二人で一台の車を分け合いながら、仲睦まじく暮らしていた。
二人の誕生日は偶然にも同じ日であった。毎年、その日が近くなるとどちらからともなくその日何をするか決めていた。しかし今年は二人とも口を閉じ、その話題が一度として出ることがなかった。夫は不安になりながらも、これは良い機会だととらえ、サプライズをしようと画策した。そしていつもよりうんと早く家を出るようになった。建設業で働いた経験を元に、近くの山に小さな別荘を作り始めた。
誕生日を明日に控えたその朝、夫は起きると一人だった。寝室のカーテンを開けると、車も無くなっていた。夜逃げをされたのではないかと青ざめた。しかし貴重品や服は全て残っていたうえ、リビングに降りると、まだ温かいコーヒーがトーストと共に食卓に置かれていた。それで夫は安堵して、ほっと一息ついた。そして男は同じことをしてやろうと思いつき、小さな書き置きを残し、明日別荘のある山のふもとまでくるように伝え残し、最後の飾り付けをするために別荘へ向かった。
女が帰るといるはずの夫がいないことに気がついた。しかし慌てることもなく、残された書き置きを見ると、ふっと笑みをもらした。
「バレバレだって。何年一緒にいると思ってるの」
書き置きの隣に胡蝶蘭の花束を置き、女は足をぱたつかせて座っていた。
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