都市の境界
「都市の空気は自由にする」と友人のKが言った。
Kは都市のどんな空気を浴びてそう言ったのだろう。それとも、たんに偉人好きな彼が引用した格言の一つなのだろうか。
閉鎖的な田舎と、開放的な都市。それは田舎を生きづらく過ごした人の体のいい方便だろう。住む場所に形容詞はつかない。家、帰路、道、全てそれを見た人が都合よく響く言葉を綺麗に並べているに過ぎない。
実際、都市の繁華街というのは目も当てられないほど汚い。ポイ捨てされたタバコ、吐き捨てられた胃液、ゴミ捨て場にたむろうネズミというのは日常的に見る事ができる。つねにたちこめる飲食店の油の匂いと人の香り。下水道も浄水器も、空気清浄機さえ遥かに発達した現代でもそんな光景を見ることになると、昔の人は思っただろうか。
それなら、真に開放的な場所はどこにあるのか?
「万人に共通して」と前置けば、それは死後の世界くらいしかないだろう。風薫る小川の小道は、夜になれば街頭ひとつない、足元さえ見えない闇の道だ。
人はわからないものに対して恐怖し、忌避する。
だから見えるもの、聞こえるもの、触れられるものに名前をつけていく。そうして名前で埋もれた場所が都会だ。kのように考えると、都市の空気は必ずしも人を自由にはしない。
しかし人間はどこかで自分の住む場所に安心感を抱く事がある。
家の近くに生える草木の匂い、夕方になると鳴く鳥、電線から漏れるジジジという音、そして何より、玄関前に辿り着いた瞬間だ。ドアノブを握る、それだけで1日の苦労を思い出し、同時にこれからの時間をどう過ごすかに胸を躍らせる事ができる。そのわずかな数秒は、紛れもなく自由そのものだ。
場所に自由があるわけではない。自分と何かの境目に、思い思いに世界を彩る余白がある。そこに自由はあるのではないだろうか、あるいは。
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