渾身の一撃
週末の部活動がささやかな楽しみだった。
きついフットワークにも慣れてきて、ある程度バスケットボールとも対等に遊べるようになってきた。ロクに習い事一つしてこなかったオレは、小学生からミニバスを続けてきた友人には体力も技術も叶うことはなかったが、それでも練習した分は身についていく実感があった。上向きの風が吹く五月のことだ。
土曜はいつもスリー・オン・スリーに励み、実戦で立ち回りを体に覚えさせていた。いつもは気だるげに指示を飛ばすだけの顧問が、この練習だけはバッシュのひもをきつく締め、不適な笑みを携えて大人気なく俺たちの練習に乱入する。皆それを快く受け入れて、三重手前の顧問がまだ現役と言わんばかりに機敏にコートを走り回る。些細なプレイミスをすることもあるが、「すまん!」と対等に謝る。蒸した体育館に風通しのいい活気が流れる。
その練習で、リバウンドを取る瞬間に先輩の体がドンとあたり、ファールをもらった。二本のフリースロー。初めてのフリースローで心臓が跳ねた。味方と敵、呉越同舟でペイントエリアの両端に並ぶ。真と静まる体育館と、対面するゴールに睨まれて足がすくんだ。
緊張はボールに込めて、ダン、ダンと跳ね飛ばす。呼吸を整え、構えた他の間から今度はオレがゴールを睨む。が、初撃はあっけないエアーボール。
一気に緊張が解け舞台に笑いが起こる。
ひとしきりオレも笑って、再び集中を練り直す。もう一度深呼吸。
黒く縁取られた白い魔王の喉元に、渾身の一撃を刺し込む。
放たれたボールは流麗な放物線を描き、喉元のゴールに歯切れ良い音と共に飛び込んだ。
それは今でも群像劇の輝く一ページだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます