第9話 原作エアプ勢の攻略(前編)
高校二年生。春。四月一日。
俺は今日、新学期の幕開けと同時に、とある高校に初登校することになった。
いや。恐らくこの世界では、ずっと前から入学していたのだろう。
起床後。視界を占めていた見慣れぬ天井に飛び起きた後、鏡を見た俺は唖然とした。
「なんじゃこりゃあ…!?」
鏡にイケメンが写っている。
このキャラクターには見覚えがあった。
女性向け恋愛シミュレーションゲーム〝カムロ*トロイカ〟―――好きな実況者が実況していたので、ゲーム自体には興味は無かったが見たことがある。
確かこいつはメインヒーロー?で、プレイヤーの幼馴染。
ヒロインの親友ポジの子がかわいいんだよなー。というか、他の女子キャラなんてほぼ登場しないんだけど。
……話が脱線した。いや、今はそんなことはどうでもいい。
恐らくこれは何かの拍子にゲームの世界に入り込んでしまったのか、もしくは転生でもしてしまったのか。
それにしても、まさかモブではなくネームドキャラクターに転生するなんて…。
しかも俺様な王子様キャラ。こちとら、ただの冴えないオタクだぞ。そんなの演じられない。
いいや、ヒロインになってBL展開になるよりはマシか……。
仕方無しに登校することにしたのだが。
「キャー!! 草薙くーん!!」
…ちょっと、悪い気はしないな…。
―――いやいや。待て。何受け入れようとしてんだ俺…。
どうにか元の世界に戻る方法を探さないと……!
別に社畜だったわけでも、いじめられっ子だったわけでもないし……多分。
あれ? ……俺、元の世界でどんな人間だったっけ……? 親は? 友達は? 恋人とか……
ていうか、元の世界……
「……元の世界って…どんなだっけ……?」
起床後に分かったこと。
この世界は、ゲーム〝カムロ*トロイカ〟の世界で、俺は何故かそのゲームのキャラである〝草薙光留〟になってしまったこと。
そして、この世界にやってくる以前の記憶が一切無いこと―――ただしそれは、このゲームに付随する記憶を除く。
年代はさほど元の世界と変わらないらしいのが幸いだった。
とりあえず登校しなければと思い立ち、俺はスマートフォンの地図アプリを頼りに、学校を目指して家を出る。
アプリが推奨してきたルートを辿っていると、住宅街を抜け、学校が視認できる範囲になった。
ここまで来ればアプリ無しでもどうにか通学できるだろう―――そう思ってスマホを閉じようとした、その時だった。
「歩きスマホは危険ですのでおやめくださ~い!」
「おわっ!!」
背後から注意の声と同時に、両肩に手が降ってくる。
慌ててスマホをポケットに突っ込み、背後を振り返ると、その男が居た。
無造作にかきあげた前髪。たるんだ声色に、それに見合った気だるげな顔。
少し老けた印象を受けるが、同年代くらいだろう。何より、気崩しているが、俺と同じ学校の制服を着ている。
見覚えがある。確か名前は……。
「えっと……八重垣か」
名前が珍しかったので、よく覚えている。
八重垣―――俺の親友だ。もちろんそれは設定上の話で、今回が初対面だ。
……少し、面倒なことになった…。
実は、八重垣についてよく覚えているのは名前だけなのだ。
実況を見た限りでは、サブキャラもいいところなモブキャラ。ゲーム本編……立場上親友である草薙光留のルートですらほとんど見たことがないので、正直他のネームドキャラやヒロインよりも対応が難しそうだ。
「えっと、って何だよ。友達に向かってよー」
「あー…悪い。考え事してたわ」
早速悪手を打ってしまった。
ただ、妙な言動を取っても今のようにからかわれるだけで、勘繰られることはないだろう。
しばらくは彼にこの世界について教えてもらおう。
さてまずは……俺の幼馴染―――という設定のヒロインのことを教えてもらうべきだろう。
原作通りであれば、俺は今日、彼女と数年ぶりに再会する。
だがあいにく、俺は大切な彼女の名前を失念してしまっている。というか知らない。当たり前だ、幼馴染でも何でもない赤の他人なのだから。
この世界に関する唯一の手掛かりである実況動画では、実況者が自分の名前を付けており、デフォルトネームすら分からない。
「八重垣、今日転校してくる子、どんな名前だったっけ」
「え? あー……確か、大姫アカリとか言ったっけ? ちょっと前、大節先生と話してるの見かけたわ」
そうだ。確かそんな名前だった、気がする。
「そういえば、幼馴染なんだっけ? その子が幼馴染?」
「あ、あぁ。そうだ。名前も同じだし、その子なんだろうな……」
おぼつかない返答に少し怪訝そうな顔をされたが、それ以上追及されることは無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます