第9話 原作エアプ勢の攻略(中編)

 さて。ストーリー通りであれば、この後、草薙は学校でヒロインを見つけて声を掛けるだろう。


 ゲームのネームドキャラに転生したからには、作中のキャラ通り動くのが定石だろう。タイムパラドックス的な異変でも起きてしまっては困る。

 これといってアクションを起こしたいキャラも特にいないし、しばらくは目立たないように……したいところだが、こんなキャラなのでそれは難しいだろう……とりあえず、草薙光留として、普通に学園生活を送るべきだろう。


 実況で最初の頃の展開については記憶があるし、それっぽく絡んでおけば大丈夫だろう。

 ―――ただ。


(そのためにはクッソ恥ずかしいイケメンムーブをかまさなくてはならない……!!)


 見ているコッチがこっ恥ずかしかったからよーく覚えている。

 この草薙光留とかいうキャラは「おもしれー女」的なセリフを素で吐くような、典型的過ぎて逆に見かけないようなイケメンキャラなのだ。


 その役目を俺が担うのはあまりにもキツ過ぎる……たとえ見た目がイケメンになっていても、だ。

 だが、仕方がない。


「おっ、いたいた。俺が見かけたの、あの子だよ」


 校門をくぐったところで、八重垣が俺に耳打ちしてくる。

 肩より少し長い、ストレートの黒髪。桜の花びらと共に風になびくその姿は、大和撫子といった印象を受ける。


「よう、アカリ」


 理性をかなぐり捨て、声を張って名を呼ぶ。

 するとその女子生徒はこちらを振り返った。


 全てが平均的な女子生徒といった感じの容姿。それでも整っている部類なのだろうと思う。

 潤んだ瞳。震える唇。思わずどきりとしてしまう。


「桜。頭から生えてんぞ、アカリ」


 そのセリフを放ったと同時に、周囲の女子生徒たちから小さく黄色い歓声が上がった。

 ―――これの何が良いんだよ!! マジで女子訳わかんねぇ!!


「おいおいミツル〜。何小っ恥ずかしいことやってんだよ…」


 俺だって分かってやってんだよ!!

 と言い返してやりたかったが今はできない。


 さぁ、肝心のヒロインの反応はどうだ……?

 そして彼女は、こう返した。


「―――八重垣くん、こんな声だったんだ…」


 ……。

 は?

 ……八重垣?


「あ―――ご、ごめんなさい! 私、編入生なんで先に行きますね!!」


 完全に無意識なセリフだったらしい。ヒロインは俺以上に動転して、はっと口を抑える動作をしてから、そそくさと俺たちの前から立ち去った。

 背後にいる八重垣の表情は分からない。が。俺や彼女と同じ顔をしているだろう。本人を含めたその場にいる全員が驚いているなんて、どういう状況だよ。


「ふーん…俺が目の前に居るのに八重垣に着目するとは……お、おもしれー女……」

「声震えてるぞ、ミツル」


 ……だって、おかしいだろ。

 八重垣は攻略対象はおろか、準レギュラーに含められるかも危ういほどのモブキャラ。

 今のセリフそのものも……うろ覚えだから確証は無いが、ゲームの選択肢の中に無かったはずだ。

 全てが全てゲーム通りに進むわけじゃないのか……?


「てかさ、ミツル」


 巡らせていた思考は、八重垣の声掛けによって中断される。


「……俺のこと、いつの間に話してたの?」

「え? あー、まぁ……ほら、親友だし」

「おおっ! 流石心の友!」


 適当に話を合わせると、上機嫌になった八重垣からバシバシと肩を叩かれた。


 ……何かがおかしい。

 登校初日から既に、俺は彼女―――大姫アカリに、強い違和感を覚えていた。

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